[雪姫]
「珪。一緒に帰ろ?」
いつもと同じ放課後の風景。
定番になった俺か雪流の台詞。
「あぁ」
誰かと一緒にいることがこんなに幸せなんだと気付いたのは、間違いなく雪流のおかげ。
「…でね、それが明日なんだけど空いてる?」
そんなことを考えてたら、突然、目の前に雪流の大きな瞳。
「あ…ごめん、何?」
深い漆黒のそれは、あの子猫を思い出させる。
「も〜歩きながら寝ないでよ!映画の試写会。当たったから明日行かないって?」
クルクル変わる表情が、いつまでも俺の傍にあればいいと思う。
「明日は…」
「あ…予定あり?」
いつも、俺の表情から言葉を読み取る雪流。
「……撮影」
けど、今ばっかりはしてほしくなかった。
「そっか……うん。しょうがないよね。他の誰か誘ってみる…」
いつもの笑顔じゃない、口元だけに浮かべる笑み。
今、無理してる。
その笑みは雪流の本心じゃない証拠。
「…行く」
そんな表情させたくない。
それよりも、雪流が他の奴と一緒にいるなんて考えたくもない。
「試写会、何時からだ?」
「え?あ…えと…17時からだけど…?」
「それまでに終わらせるから…」
雪流がそんな表情すると…俺は、どうしていいか分からなくなる。
「…でも…」
大きな瞳が不安で揺れる。
「なんで…そんな表情するんだ?」
雪流を幸せにしたいのに、雪流の笑顔が見たいのに…。
その笑顔が自分に向けられないなら、そんな幸せ壊したくなる。
「……俺と行くの嫌か?」
俺、矛盾してるな…。
けど…この気持ちだけは押し殺しちゃだめな気がするんだ。
「違うよ!私だって珪と行きたいもん…でも…撮影、疲れるでしょ…」
上目遣いで見つめてくる仕草が可愛くて、抱き締めたくなる衝動をなんとか抑える。
「だったら休む」
「ダメだよ!ファンの子達、ガッカリするよ?それにお仕事でしょ…ちゃんとしなきゃ」
別に俺はやりたくてやってる仕事じゃないけど…。
雪流はそーゆーの許してくれない。
何事にも一生懸命、それが雪流の信条。
「だから、17時まで終らせる。俺と行こう?」
最後のダメ押し。
「…………無理してない?」
ビンゴ。
「平気。お前が他の奴と一緒にいる方が嫌だ」
「…………じゃあ…一緒に行こうねv」
「あぁ」
やっぱり、お前は花みたいに笑ってるのが一番似合う。