目が覚めたら、いつも傍にいて・・・。
・・・・・・・・・・・・・・
「・・・ん」
いつもより少しだけ早く目が覚めた朝。
隣にいるはずの姿がないことに気付く。
辺りを見渡してもどこにもいない。
いつもは、ボクが起きるまで傍にいてくれるのに・・・。
なのに、今、この部屋には、ボク一人。
「・・・ねえ、どこにいるの?ねぇ・・・」
不安になってその人を呼ぶ。
一人は、怖いから・・・。
「ここだよ、タケル」
ベランダから声が聞こえてくる。
ボクは、ベランダに足を運んで、やっとその姿を確認した。
「・・・賢」
「おはよう、タケル。今日は気持ちのいい朝だよ」
賢はベランダでコーヒーを飲んでる。
「うん・・・」
でも、ボクはなんだかイヤな気持ち。
「・・・どうしたんだい?まだ眠い?」
「そうじゃ・・・ないけど・・・」
なんだか、変なボク・・・。
こんな気持ちになるんなら、もう少し寝ていればよかった・・・。
「タケル?」
「・・・なんでも・・・ない」
だって・・・悔しいじゃない?
ボクがこんな気持ちになるのは、賢を好きだからで・・・。
なのに、賢はボクより天気の方が気になるみたい。
賢は、本当にボクのこと好きなの?
・・・・・・・・・
タケルの機嫌が悪い。
確かにいつも寝起きは悪いが、今日の原因はそうじゃない。
「タケルも何か飲むかい?」
僕は気づいてる。
でも、気づかないふりをしてみる。
僕だって、タケルの気持ちが知りたい。
「・・・オレンジジュース」
とりあえず注文通り、グラスにジュースを注ぐ。
「ありがと」
それを受け取ろうと伸ばした手を掴んで引き寄せる。
「タケルはなにを拗ねてるのかな?」
タケルの細い躰を抱きしめる。
「!・・・拗ねてないよ」
そんなに真っ赤な顔で言われても、信じられないよ。
「嘘吐きだね・・・それとも、僕には言えないこと?」
耳朶を口唇で掠めて、低めの声で囁いてみる。
タケルが、好きだって言ってくれた声で。
「っ!!」
思った通りの反応で、僕に躰を預けてきた。
「言ってくれなきゃ、分からないだろう?」
「・・・って・・・なかった・・・」
僕の胸に顔を埋めたタケル。
「最初はそんなつもりじゃなかったんだけど・・・」
僕の肩口を掴んでいた指に力がこもるのが分かった。
「淋しかった?」
うなずくタケルの背中をゆっくりと撫でてやる。
「僕もだよ」
僕がそう言うと、タケルは驚いたように顔を上げる。
本当はいつものようにずっと寝顔を見ていたかったんだよ。
やっぱり、我慢は躰に毒だね。
「・・・賢?」
「試すようなことをしてごめんよ」
でも、どうしてもタケルの気持ちが知りたかったんだ。
「え、まさか・・・」
僕は笑顔でタケルを見つめる。
「ひどいよぉ!!」
頬を桜色に染め、大きな瞳にうっすらと涙を浮かべたタケル。
「もう知らない!ボク、もう一回寝るからね!!入ってこないで!!!」
タケルは僕の腕から逃れて寝室に戻る。
でも、僕が追いかけることを知ってるくせに。
僕はタケルが好きだからね。
でも、タケルも僕が好きだろう?
だから、ベッドに突っ伏してても、本当に寝たりなんかしないんだ。
そーやって、拗ねたふりをして僕を待ってる。
だって、そうだろ?
さっきタケルは小さな声でこう言ったんだから。
「だって・・・ボクが起きた時・・・傍にいてくれなかった・・・」
ほら、やっぱり、僕は愛されてるんだ。
・・・・・・・・・・・・・・
目が覚めたら、いつも傍にいる・・・。
<END>
(C) 20000828 志月深結
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