<< HAPPY MEW YEAR >>
 
 
真夜中に鳴り響く除夜の鐘。

ベッドの中でそれを聞く。

腕の中に最愛の恋人を抱いたまま。
 
 
 
タケルが不意にクスリと小さな笑いをこぼす。

「…どうしたの?」

「ん…思い出したの…3年前のお正月のこと」

楽しそうな表情を浮かべるタケル。

それとは裏腹に僕の表情は曇っていく。

僕が知らない昔の君。

「聞きたい?」

本当は僕がいない過去の思い出なんて聞きたくない。

「…聞きたいな」

だけど、精一杯強がってみる。

「あのね、その年はみんな初夢を見なかったんだ」

「初夢を?」

「そう。バクモンがみんなの初夢を食べちゃったんだ。それをお兄ちゃんと二人で取り戻したの」

まただ…。

"お兄ちゃん"

この単語を聞かない日はないってぐらい、タケルは"お兄ちゃん"子だ。

しかも、その"お兄ちゃん"はタケル以上のブラコンで…。

「その時、ボク達ね夢の世界に連れていかれたの。しかもボクの夢の世界」

「タケルの…夢」

「そう。そこではさぁ、パタモンが凧でガブモンが獅子舞だったの!」

パタモンが凧…タケル…相変わらず柔軟な思考回路を持ってるんだね…(苦笑)

「だけど、そのせいで進化できなくて大変だったんだけどね」

舌を出してご愛嬌とばかりに小さく笑う。

「お兄ちゃんはね、ボクの夢にいなかったからそのままだったんだけど、全部ボクが思った通りの世界なんだよ!すごいでしょ!」

楽しそうに笑うタケルを見ながら、僕もつられて笑顔になる。

だけど、その笑顔の本当の理由。

タケルの夢に"お兄ちゃん"がいなかったことの方が嬉しいって言ったら、タケルは怒るかな?

「…そういえば、その夢のタケルはどんなだったの?」

「え!?」

何気なく流れで聞いた言葉にタケルが過敏に反応する。

「パタモンが凧。ガブモンが獅子舞だったんだろ?じゃあタケルは?」

「えと…ボクは…」

タケルの言葉が少し濁る。

「…どうしたの?」

頬を赤らめて不安げに見上げてくるタケル。

「………笑わない?」

そんな態度がすごく可愛くて

「笑うわけないだろう」

腕の中にいたタケルを強く抱きしめた。

「……こ…ったの」

僕の胸に顔を埋めたまま、小さな声でタケルが囁く。

「…ん?」

「……ネコ、だったの」

一瞬、僕の脳裏にとんでもない格好をしたタケルの姿が横切る。

「………ネコ耳?」

思わず、目の前にいるタケルをマジマジと見つめてしまう。

「ちがぁ〜う!!」

タケルは首を横に振りながら真っ赤になって叫ぶ。

「もぅ、あの時は大変だったのにっ!」

「ごめん、ごめん…でも、そんな夢だったら僕も見てみたいな」

拗ねてしまったタケルを宥めるように頭を撫でる。

「……見たいの?そんなにネコになりたい?」

どうやら、まだ拗ねてるらしいな…。

「…僕が猫になったら、タケルが可愛がってくれるだろう?」

「…………うん」

小さく頷いて僕に抱きついてくる。

「………今年の初夢は、絶対に賢の夢見るんだもん」

夢に絶対なんてないのに…そんなタケルが可愛くて心の奥が温かくなる。

「僕もタケルの夢、見ようかな」

「じゃあ、起きたら夢の話しようね。これからもずっと色んなこと話そうね」

その言葉に、タケルも僕と同じ気持ちなんだって気付いた。

過去を振り返っていたら、未来の君に置いて行かれてしまうね。

過去の君を知らなくても、未来の君を一人占めできるんだ。

「そうだね。毎日、いろんな話をしようね」

それだけで、僕は幸せになれるんだから…。
 
 
 
だけど…新年早々、僕的にはちょっと難攻な問題にぶつかってしまった。

隣りで気持ち良さそうに眠るタケルを見ながらため息をつく。

「夢の話…か」

当然、タケルが起きたら嬉しそうに夢の話をしてくれるだろう。

その次は当然、僕の番で…。

……よりによって、今日、この夢を見なくてもいいじゃないか…。

いや、今日だからこそ見た夢なのか…。

僕はもう一度、深いため息をついた。

「…ネコ耳のタケルの夢を見たなんて言ったら……怒るだろうなぁ」

僕は無邪気な寝顔を見ながら苦笑いするしかなかった。
 

HAPPY MEW YEAR......

<END>


あけまして、おめでとうございます!
ついに2001年になってしまいましたね。
やっぱり、21世紀初めての文は賢タケだ!
ということで、初夢ネタです(笑)
どうやら、深結の中で賢はギャグキャラになりつつありますよ(爆)

21世紀も思いっきり賢タケで突っ走って行きます!
ついて来れる人だけついて来て下さい(笑)

(C) 20010101 志月深結

BACK