MeltIng
SnowS
いつもと違う感覚に目が覚める。
隣りには、滅多に見れない眠ってる賢の姿。
ボクが賢より早く目が覚めるなんて、めずらしいなぁ。
でも、めずらしいだけで、別におかしな状況じゃない。
だけど、なんだろう、ドキドキする。
「なんだろう…これ」
賢を起こさないように、静かにベッドから出る。
一瞬、震えが走ったことで、何も身に着けていないことを思い出す。
床に投げ出された少し大きめの賢のパジャマを上だけ羽織る。
「ん〜…なにかなぁ…すごく、静か…」
いくら朝早いからって、いつもより絶対に静か。
それに、なんだか、空気がすごく尖ってる…。
この感覚……。
「あ、まさか…」
ボクは窓際まで歩いて、ゆっくりとカーテンを開ける。
「やっぱり」
やっと、ドキドキの意味が分かった。
「きれぇ…」
ボクの目に飛び込んできた景色は真っ白な世界。
空気が尖っていたのも、すごく寒かったから。
こんな日は、空気が痛いくらいに透き通ってる。
「……雪だね」
背中に暖かな体温を感じて、自分が抱きしめられてることに気付く。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫」
その声が優しくて、賢が微笑ってるんだって思う。
「すごいね…真っ白だ」
「うん。すごく、キレイ」
「………」
「………」
ボクも賢も、しばらくその景色を見つめていた。
降り続いてる雪が、真っ白な羽のようで、どこかエンジェモンを思い出す。
どこまでも続く真っ白な世界。
道路もビルの屋上も通りの街路樹も全部が真っ白。
だけど、突然、不安になった。
「………賢」
いるはずの賢がいないように思えた。
だから、名前を呼んでみる。
「なに、岳?」
すぐに賢の声が聞こえて安心する。
「ううん……なんでもない」
「岳…どうしたのさ?」
不安気にボクの顔を覗き込んでくる賢の腕をすり抜けて
「なんでもないの!」
って笑顔を見せる。
そのまま、誤魔化すようにリビングに足を運ぶ。
だって、言えないよ。
淋しくて泣きそうになったなんて。
真っ白な世界はキレイだけど…。
なんだか淋しくてイヤ。
ひとりぼっちにされたみたいでイヤ。
賢といるのに、そんな感覚になることがイヤ。
キレイで真っ白な世界はボクから賢を奪ってくみたいでイヤ。
ボクの傍には賢がいなくちゃダメなのに。
ボクを淋しくさせることができるのは賢だけなのに。
リビングでエアコンのスイッチを入れてソファーに座る。
「岳。何か飲む?」
賢もすぐにリビングに姿を見せた。
「んと…ミルク♪」
クッションを抱いてテレビのリモコンを探す。
「了解」
その言葉を聞いて、テレビをつける。
そこにはいつもと同じアナウンサーがいて、よく分からないニュースを読んでいた。
けど、いつもと違ったのはニュースの内容。
『この雪のため東京はほとんどのJRが運転見合わせとなっております』
「電車…止まってるんだ」
ミルクの入ったマグカップをボクに手渡して、ボクの隣りに座る賢。
「……賢、学校どうする?」
ボクはミルクを飲みながら上目遣いで聞いてみる。
「岳こそ…」
二人で顔を見合わせて
「「…休んじゃおっか?」」
同じ台詞でクスクス笑う。
「じゃあ、今日はずっと二人でいれるね」
「この雪に感謝しなくちゃ」
ホントに、賢の言う通り。
雪のおかげでたくさん賢と一緒にいられる。
さっきまでイヤだったのに、そう思うとイヤじゃない。
ボクをこんなに嬉しくさせることができるのも賢だけなんだ。
やっぱり、ボクの傍には賢がいなくちゃ。
「ねえ、後で雪だるま作ろうね」
キレイで真っ白な世界を、賢と二人で歩き回ろう。
そしたら、きっと大丈夫。
キレイで真っ白な世界には、ボクと賢の足跡がいっぱい。
そしたら、そこはもう、ボクと賢だけの世界なんだよ。
だけど、賢にはナイショだよv