Joker
 

「ねえ、もう、終わりにしない?」

 それは突然の告白。

「…何をだい?」
「ボク達の関係」

 いつもの口調でにこやかに笑う岳。

「もう、飽きちゃったんだよね。キミってば思ったよりつまんないし」

 繋がらない思考回路を必死で回復させる。

「岳…それは…」

 今のは、僕の聞き間違いか?

「ボク達、もう別れよう、ってこと」

 一瞬、時が止まった。

 別れる?

 僕と、岳が?

 そんなこと、出来るわけがない。

「…理由は…」
「言ったでしょ。飽きちゃったって」

 まるで興味のない醒めた口調。
 本当…なのか?

「…僕のこと、嫌いになったのかい?」

 足元がフワフワとして、立っていられなくなりそうだ。

「……嫌い。大嫌い」

 目の前がぐにゃりと歪んだ気さえした。

「………岳が…そう決めたんなら…」

 心とは裏腹な言葉。

 本当は、無理やりにでも君をこの手に留めておきたいのに…。
 泣いて縋りついてでも、君を引き止めておきたいのに…。
 僕のちっぽけなプライドが、精一杯"イイ男"を演じさせる。
 君のためならどんな役でも演じてあげるよ。
 君が望むことは、全部叶えてあげたいんだ。
 例え、それが僕の意に反していても…ね。

「っ………………そう」

 僕の言葉に、岳は小さく目を見開く。

「"別れ"って…案外、簡単なんだね」

 俯いてしまった岳のくぐもった声が耳に響く。

 安心したかい?
 僕がしつこい男じゃなくて。
 僕はね、君の重荷にだけはなりたくないんだ。

「…そうかもね」

 だけど、僕が君を想うことだけは、誰にも奪えないよ。
 それが岳の望みでも、これだけは叶えられない。
 君が僕のものじゃなくても、僕は永遠に君のものだ。

「あ…なんだ…もしかして、賢もボクと別れたかったの?」
「………岳?」

 いきなり、何を言い出すんだ。
 別れを切り出したのは、岳だろう?

「ちょうど良かったんだ…ボクが言わなきゃ…自分から言った?」

 俯いた岳の身体が小刻みに震えている。

「岳!?」

 岳の両肩を掴み、強く揺するように上を向かせる。

「っ…」

 ぶつかった視線の先には、碧い瞳を濡らす透明な雫。

「…なぜ…泣いて…」
「離してっ!」

 一瞬のとまどいに気を取られ、掴んでいた手を振り払われた。

「もういい!賢なんて知らないっ!本当に別れてやるからっ!!」
「岳!!」

 岳は自分の部屋に閉じこもってしまった。

 本当に別れるって…?
 じゃあ、今までのは冗談だとでもいうのか?

 一体、なんなんだ。
 誰か…分かるように説明してくれ!

「…………君、激ニブだね」

 不意に背後からため息混じりのパタモンの声が届く。(って、コイツ、いつからいたんだ!?)

「君にだけは言われたくないね…」

 いつもいつも、憎たらしい態度を…。
 岳のパートナーデジモンじゃなかったら、真っ先に消去してやるのに。

「あ、そう。じゃ、教えてあげない」
「…ちょっと待て。お前、知ってるのか!?」
「当たり前じゃない。ぼくは岳のパートナーなんだよ」

 自慢気に胸を張るパタモンに、絞め殺したくなる衝動を抑えて聞く。

「……頼む。教えてくれ」
「…………どうしようかなぁ〜」

 どこか岳と似ている性格。
 僕を焦らして楽しむところまでそっくりだ。
 が、それは岳にしか許されない行為だ。

「パ、パタモン!教えてあげてよ」

 僕の殺気に気付いたのか、ワームモンがパタモンを促した。(いたのか、ワームモンも…)

「……………………カレンダー見てみたら」

 パタモンはそれだけ言うと、部屋から出ていってしまう。
 ワームモンもパタモンの後を追いかける。(…お前も苦労してるんだな)

 取り残された僕は、とりあえず、パタモンの言葉に従ってカレンダーを見る。
 …今日は仏滅か…本当に嫌な日だ。

「…別に変わったことは…」

 今日の日付けには丸印もついてなければ予定も書き込まれていない。

「あ」

 全てが一致した。

 今日は4月1日…エイプリル・フールだ。
 岳が僕を騙そうとしてついた嘘。
 岳のことだから、狼狽える僕が見たかったんだろうね…本当に可愛いな。
 なのに、僕が素直に認めてしまったから…。
 岳らしい早とちりだな……ということは、悪いのは僕かっ!?
 
 

「…岳」

 ノックの後に小さく名前を呼ぶ。

「さっきはごめん…」

 返事はないけど、僕は喋り続けた。

「僕は君の気持ちばかり考えて、自分の気持ちを言えないでいたよ。僕は君が好きだ。君と別れるなんて考えたくもない」

 ドア越しに僅かに物音が伝わる。

「君が僕を嫌いになっても、僕は君が好きだ」

 すぐ傍に岳の気配を感じる。

「絶対に、君を手離したりするものか」

 このドアの厚さが今の僕達の距離。

「岳…愛してるよ」

 ゆっくりとドアが開いて、僕達の距離はなくなった。

「………ごめんなさい」

 僕の胸に顔を埋めたままの岳が言った。

「ボク…嘘ついて…」

 泣き過ぎて掠れた声。

「もう、黙って」

 僕は岳の口唇をキスでふさぐ。

「…クス。嘘吐きな口唇は塞がないと」
「……うん。もっと、いっぱい、して」

 やっと僕を見つめてくれた碧い瞳。

「それは…嘘…じゃないよね」
「…イジワル…」

 細い腕を僕の首に回して抱きついてくる岳。

「でも、好きだろ?」
「………うん」

 約束するよ。
 君がどんなに嫌がっても、僕は君から離れない。

 君が僕から離れられないみたいにね。
 


<END>


なんじゃこりゃ〜〜〜!!!
久しぶりに書いたらこんな毒砂吐きまくりの駄文が…。
最初は狼狽える賢を書きたかったのに…なぜ、こんなに乙女な岳が………?
まぁ、激甘賢岳は今に始まったことじゃないので(笑)
しかし、深結の苦手な言葉を賢に言わせてしまった…それだけが…(苦笑)
所詮2時間そこらで書いたSSなんて…フ(涙)
とりあえず、エイプリルフールネタは書けたので深結的には満足v

(C) 20010401 志月深結

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