『ハルカ…』
 

 何が…おこったんだ?
 みんな、何を…騒いでるんだ?
 …頭が、はっきりしないんだ…。
 そうだ、アニキ…?
 
 

   アニキが…敗けた…。
 
 

 オレの…アニキが?
 うそ…ウソ…嘘だ!!!
 オレは…信じない。
 
 

 オレは…どうしたらいいんだ。
 
 

「啓介…」

 史浩の声が遠い。
 もっと、はっきり喋ってくれよ。
 何も、聞こえないんだ。
 それに…何も、見えない…。

「…泣くな」

 誰が、泣いてるんだ?

 …あぁ、オレが…泣いてるんだ。

 早く、泣き止まないと…アニキに笑われる。

 早く…はや…く。
 
 
 
 

 アニキは…敗けたんだ…。
 
 
 
 
 

 涙が…止まらない。
 オレはすっかり人気のなくなった場所に停まっているFDに乗り込んでアニキを待った。
 あの場にいたら、オレは完全に笑い者だ。
 アニキのジャケットに顔を押し付けて泣いた。
 アニキが敗けたことに泣いてるんじゃない…アニキと一緒に走れなくなることが悲しかった。
 アニキは言ったんだ…公道で負けるときが来たら、引退するって…。
 今が…その時なのか?
 オレはアニキと一緒がいいのに…。
 みんな…アイツの…あのハチロクのせいだ!!!
 そんな時、オレのすぐ隣りでエンジン音が響いた。
 

 …パンダトレノ…。
 

 なんで、一番会いたくない奴に会っちまうんだ?
 そのまま通りすぎるだろうと思っていたのに、奴はわざわざ車を降りた。
 そして、あろうことか、オレのFDの車窓をノックしやがった。
 

「…啓介さん」
 

 悔しい…。
 こんな奴、無視してやりたかった。
 でも、アイツが何度も何度もノックするんだ。
 仕方なく、オレは泣き顔を見られないようにゆっくりと少しだけ窓を開けた。
 

「早くみんなの所行けよ…お前が…勝…った」
「…泣いてるんですか?」
「!!!な、泣いてなんかっ…」

声がかすれていた。
何を言っても無駄なような気がした。

「どうして…どうしてあの人のために泣くの?」
「…藤原?」

 こいつ…何言ってるんだ?

「あの人に勝てば、俺のこと見てくれると思ったけど…」

 あの人…アニキのことか?

「やっぱり、あなたの中に俺はいないんですね」
「ワケ分かんねーこと言ってんじゃねーよ!」

 この場にいたくなくて車のエンジンをかけようと鍵を探した。

「あの人の所には行かせない」

 今更ながら、ドアロックを確認してなかったことに気付いた。
 ドアを開けた藤原は俺の手から鍵を奪ってアスファルトの上に投げた。

「なにすんだ…っ」
「涼介さんを慰めるんですか?この躰で…」

 キスされるのと同時にシートを倒されていた。

「あの人のジャケット握り締めて泣いてたんだ。本当に可愛いですね…こんなに赤い瞳して」
「どけよっ!!」

 なんで…なんで、コイツにキスされなきゃいけないんだ?
 嫌がらせにしても程がある。

「自分の立場、分かってませんね…今から俺に犯されるのに」
「っ…な…に」
 

 俺のシャツを引き裂いた藤原が本気だって分かった。
 

「やめろっ!」
 

 一気に血の気が引いた。
 シートに深く座っていたせいで身動きがとれずに、さらに引き裂かれたシャツが俺の両手の自由を奪った。
 

「へぇ、あの人も意外と欲張りなんですね…こんなに痕つけて」
 

 その痕を口唇で触れられて、顔が赤くなる。
 まるで、自分達の情事を全部見られたような気がした。
 

「やめっ!ふじわ…あ!?」
 

 躰の痕を全部塗り替えるように触れてくる。
 

「…触れただけで感じるんだ」
 

 唯一、自由になる両足をバタつかせてもまるっきりムダだった。
 ケンカなら負けないのに…なんで、こんな…。
 

「そんなに暴れたら、優しくできないですよ」
 

 いいんですか、ってオレを見つめて優しく脅す。
 

「やめろ!どけよっ!!」
「言うこと聞いてください…酷くしたくないんです」
「いやっ!アニキ!!」
 

 一瞬、藤原の動きが止まったような気がした。
 

「…そんなにあの人が好きなんですか?」
 

 藤原の表情が変わった。
 こんな…藤原を怖いと思ったのは初めてだった。
 

「いや…だ…」
「ムダですよ。誰も助けになんて来ないんですから…あなたはこのまま俺に犯されるんです」
「ふじわっ!?」
 

 無理矢理、キスされた。
 オレに触れる、アニキ以外の男…。
 

 アニキとは違うキス。
 アニキとは違う触れ方。
 アニキとは…全然違う抱き方。
 

  助けて
 

    怖い
 

  痛い
 

    嫌だ
 

  誰か
 
 
 

 ………………アニキ!!
 
 
 

「…泣かないでください…あなたを泣かせたくてしたわけじゃないんだ」

 終わった…のか?
 オレは…また、泣いていた。

「あなたが、好きなんです。だから…泣かないでください」

 好き…?
 オレを…?
 もう…分かんねぇよ…。

「あに…きぃ…」

 アニキに触れたい。
 アニキの声が聴きたい。
 なんで、今…アニキは傍にいないんだろう?

「啓介さん。俺の名前を呼んでください」
「あ…にき」
「お願いだから!啓介さん…」
 

 オレを抱きしめてる…藤原……?
 …アニキ…は?
 

  ―PPP―PPP―PPP―
 

 オレのケータイ…?
 

「…涼介さんからですよ…どうしますか?」

 あんなに呼んだアニキなのに…。
 何を…話せば良いか…わかんねぇ。

「………」

 ただ、首を横に振るオレ。
 藤原はオレのケータイを手に持って、着信ボタンを押した。
 

『啓介?』
 

 アニキの声…。

「…あなたが羨ましいですよ」

 藤原…の声。

『…藤原?』
「啓介さんは何があっても、あなたが全てなんですね…本当によく仕込まれてる」
『どういう…啓介に何をした!?』
「…一瞬でも、目を離したあなたが悪いんですよ」
 

 藤原はそれ以上何も言わず、ケータイを切った。

 まるで…峠に挑戦するみたいな瞳で…。
 
 
 
 

<NEVER END……?>

 壊れてますね、拓海君(笑)
 でも、ブラック拓海の方が好きなので、よし!
なにが、よし!なんだ?
 
 
初UP  (C) 19990830 志月深結
Renew (C) 20000701 志月深結

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