ドアをノックするのは誰だ
「こんにちわ」
それは突然の訪問者。
「えぇと…どちらさん?」
玄関で出迎えた兄、エドワードはその訪問者がどうしても思い出されず苦笑いを浮かべていた。
「アル、います?」
が、その言葉を聞いた瞬間、エドは眉を寄せる。
「お前、誰だ?」
声音は低くなり、目付きは最悪に悪い。
普通なら逃げ出したくなるような現状をものともせず、訪問者はニコリと笑顔を浮かべて言った。
「僕、アルフォンスに逢いに来たんだけど?」
スラリと伸びた体躯はエドと変わらず、同じ金色の髪を持つ青年。
ただエドと違うのは、青年の目は澄んだ青を宿していた。
「名前も名乗らねぇ奴にアルを逢わせられるわけないだろ」
「アルなら僕だって分かりますから」
相変わらず、真意の読み取れない笑顔を浮かべたまま青年は部屋の奥に視線を巡らす。
が、バンッという派手な音と共に壁についたエドの腕に視界を邪魔される。
「…相変わらずですね、エドワードさん。あぁ、機械鎧も治ったんだ。本当に賢者の石、見つけたんですね」
青年は初めて笑顔を崩し大袈裟に溜息を吐く。
「なんで俺の名前…それに賢者のって…お前、まさかっ」
エドがその青年の記憶に辿り着くのと、
「兄さん、どうしたの?」
さっきの音が聞こえたのだろう、アルが玄関に顔を覗かせたのは、ほぼ同時だった。
「「フレッチャー!?」」
と、兄弟の驚きの声が揃う。
「その節はお世話になりました」
訪問者こと、フレッチャーは再び笑顔になりペコリと頭を下げた。
「しっかし驚いたぜ。お前があの時のチビだったとは」
アルの登場で和やかになったと思われた現状は、
「僕も貴方があの小さかったエドワードさんだとは、一瞬分かりませんでしたよ」
「「…………」」
アルを挟んで悪化していた。
「え、えと、ほら、今日は急にどうしたのさ?」
「手紙に元に戻ったってあったから…居ても立ってもいられなくて、逢いに来たんだ」
「手紙?」
「ボク達、文通してるって話したでしょ。それで、わざわざ来てくれたの?ありがとう」
最初は咎める様に兄に、後は気遣う様にフレッチャーに。
それぞれ視線を合わせながらアルは言葉を紡ぐ。
「ううん。僕もアルに逢いたかったから…また逢えてすごく嬉しいよ」
真剣な眼差しでそう言われ、アルの頬が微かに朱に染まる。
「あ…ありがと。ボクも、嬉しい」
窺うような上目遣いに、はにかんだ笑顔。
その仕草に、エドとフレッチャーは共に片手で顔を隠すように押さえ目を逸らした。
「二人とも、どうしたの?」
「「いや、なんでも…」」
図ったかのように同じ行動を取るエドとフレッチャー。
お互いの真意を悟り、更に現状は悪化していった。
「アル!ここを開けろ!」
「いーやーだ!さっきから邪魔ばっかりして!兄さんのせいでゆっくり話もできないじゃないか!」
今、アルはフレッチャーと共に自分の部屋に立て篭っていた。
エドの目に余る妨害に、ついにブチ切れたらしい。
ドアは錬金術で頑丈に施錠され、ご丁寧に『入ってきたら絶交!』と貼り紙まである。
「アルー!兄ちゃんが悪かった!もう邪魔しないから、頼むから出てきてくれ!そいつは危険なんだー!」
「うるさい!もーワケわかんない兄でごめんね」
ドア越しにピシャリと言い放ち、無視する事に決めたアルはベッドに座るフレッチャーを振り返り、溜息を吐きながら隣に座る。
「アハハ。気にしてないよ。それにあながち間違ってないし」
「え?」
どういう意味?と続くはずだったアルの言葉は目の前にあった青の瞳と、チュッという軽い口づけに遮られた。
「………Σフ、フ、フ、フレッチャーッ!?」
真っ赤な顔で口をパクパクするアルにフレッチャーは笑みを深めて言う。
「アル、可愛い」
「え、ちょ、な…んっ」
今度はさっきよりも深く塞がれた口唇に、アルはやっと抵抗を思い出す。
「ん、や、やだ、やだってば!」
精一杯の力でフレッチャーを押し返し、アルは肩で呼吸を繰り返す。
「あれ、いやだった?」
フレッチャーは不思議そうな表情でアルの顔を覗き込む。
「当たり前だろ!なんでこんなコトするのさっ!?」
そんなフレッチャーをキッと睨みながら、アルは不覚にも泣きそうになっていた。
「アル、すごく可愛い」
そんなアルの内心を知ってか知らずか、フレッチャーは嬉しそうにアルを抱き締める。
「だ、だから、やめろってば!!それに、いくら見た目が子供でもボクは19歳なんだよ!君より年上なの!」
けれど身体は子供のアルがいくら抵抗しても、身も心も成長したフレッチャーに勝てる訳がなかった。
「僕だってもうあの時の子供じゃないよ。年下かもしれないけど、今のアルを護ってあげられる」
その言葉に抵抗を止め、アルは大人しくフレッチャーの腕に抱き締められた。
「ねえ、アル。僕が、嫌い?」
僅かに震える身体はアルのものか、それともフレッチャーのものなのか。
「……嫌い…だったら、手紙なんて書かない」
強く抱き締められた腕に、アルはギュッとしがみつく。
「それって………」
フレッチャーはアルの肩に手を置き、ジッとその金色の瞳を見つめる。
と、同時に『パンッ!!』という乾いた音、アルにとっては聴き慣れたその音が響き、部屋のドアが凄まじい勢いで形を変えていき、
「俺のアルに何しやがるかーーーっ!!!」
予想通り、ぶちギレバーサク状態のエドが飛び込んできた。
以前だったら、剣に変化した右手で襲いかかる勢いだが、今は引き剥がしたアルを自分の腕に納めフレッチャーに威嚇するだけに留まっていた。
エドの右腕が治ってて本当に良かったとアルは小さく溜息を吐く。
「に、兄さん。なんでもないから…」
思いの他、強く抱き締められた腕から抜け出し、アルはフレッチャーを庇うようにエドと向き合う。
「なんでもなくないだろ!心配で覗いてみたら!!お前、コイツに何されそうになったか分かってんのか!?」
「…へぇ、覗いてたんだ」
「……Σア、アル!?だから、俺はお前を心配してだな!!」
「いくら兄弟でもプライバシーは大事ですよ、エドワードさん」
アルを後ろから抱き締めたまま、フレッチャーはニッコリと笑顔で言い放つ。
「な、てめー!アルから離れろ!!」
「嫌です。貴方の邪魔がなければ好い所だったのに…いい加減、弟離れしたらどうですか?」
アルを自分の胸に抱き寄せて、その柔らかな髪にフレッチャーはキスを落とした。
「わっ、もう!やめろって言っただろ!」
「でも、嫌いじゃないんでしょ?」
慌てて逃げるアルにも、フレッチャーは懲りずに笑みを送る。
「さっきのキスも、嫌じゃなかったくせに」
------- ブチッ -------
「ほぉーそんなに死にたいか。若い身空で可哀相に……」
クックックッと笑いながら、小刻みに震えるエドの身体。
顔がすっかり悪に成り下がっている。
ベッドのパイプを媒体に、お得意の槍を錬成し矛先をフレッチャーに向ける。
「安心しろ。骨は生ゴミの日に出してやるよ!!」
パンッ
ザバァァァ
この音が二人に聞こえたかは謎だが、今、エドとフレッチャーはびしょ濡れになったまま、呆然としていた。
そして、自分達が濡れている理由をはっきりと理解した途端、みるみると青褪めていく。
ギギギ…と音がしそうな程、ゆっくりと首を動かした先には…。
「……二人とも…」
両手を胸の前であわせ、俯くアルフォンスの姿。
その隣には階下(バスルーム)に繋がっているであろう大きな水道管が二人を捕らえていた。
「ア、アル…?」
「アルフォン…ス?」
「ケンカするなら出てけーーーっ!!!!」
再度、開かれた水道管の蛇口から勢い良く飛び出してくる水、水、水。
「わ、ちょ、まて、アル!落ち着け!!」
「ア、アル!ごめん。もうしないからー!」
あれよあれよと、ドアの外に押し出された二人に弁解の余地は無い。
我に返ったエドとフレッチャーの目の前のドアは、無情にも先程以上に頑丈に錬成し直された後。
「「アルフォンスーーーッ!!」」
さぁ、このドアをノックするのは、誰?
エドアルが成長してるんだから、トリンガム兄弟も成長してるはず!と思い書いたSSです。
エドvsフレッチャーというより、エド→アル←フレッチャーみたいな図式ですね。
ちなみに、深結の考えではエドが本命だとすればフレッチャーは対抗馬です(笑)
ラッセルは…あんまり好きじゃないんでこの際放置…(謝)
大佐は…なんかアルの逃げ場みたいなイメージがあるので…(謎)
エドからアルを奪えるキャラなんて、フレッチャーかウィンリィ(※男体化希望/ぇ)ぐらいしか思いつきません(爆)
今度、男ウィンリィ×アルも書きたいなぁ…やっぱ裏かなぁ…フフ(逝け)
20040316
モドル |