「……お前、また来たのか」 この瞳に見える 世界の果てに
身体が上昇するかのように意識が戻る。
「ボクは、兄さんを信じてるよ」
そう言って、練成陣に横たわった俺の弟。 俺の、最愛の人。 「アルフォンスッ!!!」 取り戻した。
「…………………アナタは…誰?」
「…アル?」 「…どうして、ボクの名前を…知ってるの?」 「ァ……ル……ッ」
《お前には、これ以上の地獄はないだろうな》
《代償は『記憶』》
《弟が持つ、お前に関する全ての『記憶』だ》
それでもいい。 アルが、戻ってくるなら…構わない。 アルの身体を。 アルの笑顔を。 取り戻せれば。 「俺…は、エドワード」 俺の事なんて、憶えてなくてもいいんだ。 「エドワード…?」 キョトンと首を傾げる姿は、昔と何も変わっていない。 よかった。 俺の知ってるアルフォンスだ。 「あぁ、俺は、エドワード=エルリック」 ただ、その記憶に俺は居ない。
………ただ、それだけの事じゃないか。
「エド…ワード……っ」 俺の名を呟くように繰り返していたアルの身体がグラリと傾く。 「アル!?」 それを支え、その身体を初めて腕に抱く。 年相応の体躯にしては大分軽いが、確かな重みを感じられた。 触れ合った温もりは間違いなくアルの鼓動を動かしていた。 「…どうして…かな…」 俺の腕に抱かれたまま、形の良い眉を僅かに歪め、苦しそうに見上げてきた。 「ボクは、アナタを…知らないのに…」 頬を涙で濡らしながら。 「……アナタに逢えて、とても嬉しい」 苦しそうに眉を歪めながら。 「…アナタが……とても、懐かしい」 それでも、俺を見て微笑むその表情が。 「ッ………アル!」
ああ…やっぱり……。
…こんなにも、愛しいものは他にない。
『等価交換』 ずっと、その法則に拘っていた。 けれど、そんなたった4文字の言葉で片付けられるものじゃない。 怒り。 悲しみ。 不安。 そして、期待。 そんな感情から、錬金術は進化していく。 そして、等価の均衡は崩れていく。
「アル…」 俺の記憶を完全に失ったはずの弟。 けれど、俺に逢えて嬉しいと涙してくれた。 「アルフォンス…」 俺の記憶を完全に失ったはずの弟。
それは、等価の均衡が傾いた証拠。 錬金術では説明できない、人間の力。
それが、奇蹟。
「…エド…?」 そうさ。 記憶がないのならば、これからを作ればいい。 思い出がないのならば、これからを作ればいい。 時間は、十分過ぎる程ある。 幸いにも、俺は生きている。 アルだって生きている。 だったら、何の問題がある。 今まで出来たものだ、出来ないわけがないじゃないか。 俺達は、まだ、生き続ける。
「いいか、アルフォンス」
この世界が地獄だというならば。
「俺達は、これからだ」
俺が天国に変えてみせる。
アルの体を取り戻した時、やっぱり何かを持っていかれるんじゃないかと思いまして…。 何パターンか考えて、一番幸せそうなのを書きました(笑) 過去よりも未来を勝ち取れって感じで…。 多分、この二人なら幸せになってくれると思われます<なんて身勝手なι しかし、この場合エドは機械鎧のままですねぇ。 20040305 |