恋人
今日は2月14日。
世間でいう、St.バレンタインデー。
恋人達が、より一層、愛を深められる日。
俺の記憶にはそうあったんだが…何か違くないか!?
「なぁ、アルー。今日はバレンタインなんだぞ?」
「知ってるよ。だからこーやって一生懸命チョコ作ってるんじゃないか」
そう、アルは朝早くからキッチンに立て篭もってチョコを作っている。
「アイツ等にチョコなんてやんなくてもいーじゃん」
チョコはチョコでも、軍部宛てのチョコの山。
「仕方ないじゃないか。リザさん、すごく困ってたみたいだし…」
そう、この気の良い弟はホークアイ中尉に頼まれて、軍男性陣宛てのチョコを作っている。
毎年、女性陣がチョコを配っていたのは知っていたが、今年はなぜかアルにまで回ってきた。
アルに頼む時のホークアイ中尉の申し訳なさそうな表情が思い出される。
「大体、なんで軍に関係無いアルが作んなきゃいけないんだよ?それにアルは男だぞ!?」
「その男のボクにチョコレートくれって強請りまくってたのはどこの誰?」
「う……で、でも俺にくれたのって市販じゃん!?俺のも作ってくれよ!!!」
そう!普通は恋人には手作りで義理こそ市販だろ、なぁ!?
「でもね、リザさんがなるべくなら手作りでお願いって…数多いし…兄さんのまで作ってたらバレンタイン終わっちゃうよ」
だーかーらー!!!
なんでそれを素直にきいちゃうんだ、お前は!
チョコでもなんでも錬成しちまえよ!
錬成だって一応は手作りだ!!!
純粋にも程があるだろう!!!
…でも、そこがまた可愛いんだけどな。
「あ、みんなと同じでよければあげれるけど?」
可愛い…………弟よ(泣)
結局、アルに勝てるわけがない俺は、テーブルに座ってジッとアルを見ていた。
真っ白なエプロンがよく似合ってる。
ちなみに買ってきたのは俺。
やっぱり俺の目に狂いは無かったな。
さすが俺!
でも、フリルとかいっぱい付いたのも似合うと思うんだけどなぁ…。
それで出迎えられちゃったりしてさ。
"おかえりなさい。ゴハンにする?それともオフロ?"
とか言われてさ…てか、その場合むしろアルだろ!
うっわ、どうするよ、これ、男のロマンじゃねぇ!?
「…兄さん。またなんか変なコト考えてるでしょ」
気付けば大きなボウルを腕に抱えたアルが目の前にいた。
「Σな、な、な、何も考えてなんかないさ!これっぽっちも!男のロマンなんて全然思ってないからな!!」
「は?もう、どーでもいいけど、コレ、ちょっと味見してくれない?」
「ん?どれだ?」
あ、焦った…。
あんなのばれたら、しばらく口聞いてもらえないぞ、絶対。
「このチョコ。なんかボク、朝からチョコだらけで味覚が麻痺してきたみたいで…」
そう言って、アルは指でチョコを掬いペロリと舐める。
「ん〜やっぱりあんまりわかんないや。ね、兄さん、お願い」
「あぁ、いいぜ。その代わり、アルが食わせて」
「………はぃ?」
「今、アルがしたみたいに、食わせてくれって言ってんの」
市販チョコで足りない分、ちゃんと補ってもらわないとな。
「……っ!だ、誰かそんなコト!」
意味を理解した途端、アルの顔が朱に染まる。
「俺は別に構わないんだぜ?そのチョコがどんな味だろうとな。でも中尉に頼まれたんだろぅ?」
後は、押して押して。
「う……」
「せっかくのチョコが失敗してみろ。ガッカリするだろうなぁ〜、ホークアイ中尉」
押しまくる!!!
「うぅ……この悪役キャラめ…」
良しっ!!
ガッツポーズは心で決めて、表面上はいたって平静を保つ俺。
「ほらほら。食わせてくれんだろ?」
アー、と大きく口を開けてアルを見る。
「……変なコト、しないでよ?」
耳まで赤くしたアルが人差し指でチョコを掬う。
「…したらタダじゃおかないんだから」
空恐ろしい事を言いながらも、アルは自分の指を俺の口元に運ぶ。
俺は小さく頷きながら、その白い指を軽く口唇で挟み、そのままペロリと舌で舐め上げる。
「っ……」
アルの身体が僅かに強張ったが、俺は気にせずに味見を続ける。
舌先で温かなチョコが溶け、口の中に甘味が広がる。
「…ん。美味い」
「そ、そぅ?よかった…」
そして、アルが指を引こうとするより早くその手首を掴み、今度は指先に口付ける。
「兄さん!?」
逃げようとするアルの腰を引寄せ、俺の膝上に座らせる。
「でも、アルのがもっと美味い」
片手でチョコ入りボウルを持ったままのアルは、派手な抵抗も出来ずにすんなりと俺に身体を預けている。
「や、変なコトしないって言ったじゃないか!このバカ兄!離せ、バカー!!」
…言葉は激しく抵抗中だけどな。
「あんまりバカバカ言ってると、このまま襲っちまうぞ?」
「…………」
ピタリと押し黙り、キッと睨んでくるアルの瞳に薄っすらと浮かぶ涙。
あーもう、そんなに可愛くていいのかよ!
「ククッ…ばーか、本気にすんなって。今はチョコ作るのが先なんだろ?」
「兄さ…」
ホッと肩の力を抜きかけたアルに、ニヤリと笑って耳元で囁く。
「その後で、たっぷりとアルを食わせて貰うけどな」
「!!!!」
途端にまた赤くなるアルの口唇をチュッと奪えば、チョコより甘い恋人の味。
その後、アルのチョコの行き先が大佐達だと知った俺が錬金術で砂糖を塩に変えたのは、当然の話だな。
豆はこんな感じが理想です。
どこまでも強気なくせにアルには勝てない兄貴万歳☆
ちなみにアイさんはどこぞの無能上司からアルのチョコが欲しいと命令されて仕方なく…希望(笑)
20040217
モドル |