見上げた空は
 
 
 

 声が、聞こえる。
 

「アル?」

「アルー?」

「アルフォンスー?」
 

 自分の名前を呼ぶ兄の声。
 

「ココだよ、兄さん」
 屋根の上から身体を乗り出し、片手を振る。
「アル!?なんでそんな所にいるんだよ!」
 危ないだろ、と言いながら、自分も登ってくるのがボクの兄さん。
「急にいなくなるから、探しただろ」
 言葉でボクを咎めていても、表情でそんなに怒っていないのが分かる。
 その証拠にボクを屋根から降ろそうとはせず、兄さんはボクの隣りに座った。
「何してたんだ?」
「空…見てたんだ」
 見上げた先は、一面の星。
 兄さんもボクと同じように上を見上げる。
「へぇ…綺麗だな」
 ボクは空を見上げたまま、何も答えずにいた。
「アル?」
 そんなボクを見つめる兄さんの視線が分かる。
「……綺麗だけど…怖い」
 だけど、ボクは空を見上げたまま答えた。
「怖い…?」
「アレは何億年も前の星の輝き。今はもう存在しないかもしれない星なんでしょ」
「…あぁ」
「その星が滅んでも、ボク達がその事実に気付くのはずっと後ってことでしょ。それよりも、こんな小さな光なんだもん、もしかしたら誰も気付かないかもしれない」
「アル…」
「一人で死ぬって…そーゆーことなのかな」
「アル」
「だったら、母さんは……」
 

「アルッ!!!!」
 

「………ごめん、兄さん」
「…もう遅い…寝るぞ」
「うん…」
 
 

 だったら、母さんは、幸せだったんじゃないのかな…。
 

 ボク達のしようとしてることは…本当に正しいの?
 

 母さんが生き返ってくれたら、すごく嬉しい。
 

 だけど、それはボク達の意思。
 

 母さんの意思は…?
 

 ボクは空に向かって小さく問う。
 
 

 明日、母さんは、微笑ってくれるだろうか。
 
 

 見上げた空は、何も答えてくれないけれど…。
 
 


お母さん錬成前日の夜。
アルはお母さんを錬成するのに少し抵抗があったんじゃないかなって思う。
もちろんエドにもあっただろうけど、エドはそれに気付かないフリをしてた。
均衡が壊れないように、必死に自分達に言い聞かせて。
これは二人だけの秘密、そして罰、二人は同罪。
この兄弟が本当に愛おしい今日この頃です。

20040205

モドル