喧嘩
 
 
 

 兄さんとケンカした。
 理由は単純かつ明確で。
 ものすごく些細なコト。
 だけど、それを素直に受け流せられる程、ボクの心は広くない。
 ボクは自分が思っていた以上に、ワガママだったらしい。
 
 
 

「それで家出したと?」
 …はい。
「やはり兄弟…なんだな」
 ……仰る通りです。
「だが、例え年齢は大人でも、今の姿で夜に出歩くのはあまり感心しない」
 ………返す言葉もございません。
「……それで、喧嘩の原因は?」
「…………………」
「アルフォンス」
「…………………」
「…黙まりでは私は何も助けにならんぞ?」
「…………笑いませんか?」
「内容によるな」
 そう言いながらも、中将はジッとボクの言葉を待っている。
 ボクも、いつまでもダンマリ貝になっているワケにもいかず…。
「………今日は、兄さんの誕生日だったんです」
 ケンカの経緯を話すコトにした。
 
 
 
 
 
 

「ねぇ、兄さん。今日は早く帰れる?」
「あ?ん〜そうだな、別に急ぎの仕事もないしな…どうかしたか?」
「ううん。聞いてみただけ、それじゃ、また後でね」
 ボク達はセントラルで働いている。
 同じセントラル勤務といっても、お互いに自分の職場がある。
 兄さんは賢者の石に関するチームの中心人物。
 ボクはマスタング中将付きの新米兵扱い。
 職場では、ほとんど一緒になんていられない。
 だから、家で過ごす僅かな時間。
 それが、ボクにとっての一番大切な時間。

 
 
 
 

「アルフォンス…その経緯は朝からなのか?」
「え?いや、なんとなく、話の流れが分かりやすいかなっと…ダメでした?」
「できれば、要点を掻い摘んでくれた方が嬉しいのだが…」
「あ、はい…ぇと…じゃあ…」
 
 
 
 
 
 

 ボクは、今日の兄さんの誕生日をお祝いするのをすごく楽しみにしてた。
 今日は特別。
 そう思ったから…。
 中将に無理を言って仕事を早く帰らせてもらったし。
 兄さんの好きな物ばっかり作って、グレイシアさん直伝のケーキも焼いたし。
 1ヶ月前からずっとずっと悩んで決めたプレゼントも用意出来た。
 なのに…。
 突然の電話で伝えられた一言。
 

「悪い、アル。今日、帰れなくなった」
 

 今、この兄は何て言った?
 帰れない?
 どこに?
 家に?
 

 ………信じられない。
 

 今日の仕事量、すごかったんだよ。
 どうしてもって無理言って、中将に半分やってもらって、更に明日は残業確定。
 当然、中将のお小言付き。
 

 この料理の山はどうするのさ。
 兄さんが半分以上食べるコトを計算して作ったんだ。
 ボク一人で食べきれるワケないじゃないか。
 

 せっかく作ったプレゼント。
 1ヶ月も前から悩んで苦労して、やっと完成したオルゴール。
 錬金術は使わないで、ちゃんと1から手作りなんだよ。
 今日、渡さないと意味ないじゃないか。
 

 なにより…今日は、兄さんの好きなコトさせてあげようと思って、至上最大級の覚悟も決めて待ってたんだ。
 

「だから……アル?聞いてるのか?」
 

 それをこの兄は…。
 聞いてるのか、だって?
 聞いてるよ、嫌でも聞こえるに決まってるだろう。
 ボクの大好きな声で。
 最悪に残酷な死刑宣告。
 

「おい、アルフォ」
 
 
 

「……一生帰ってくるな、このバカ兄ーー!!!」


 
 
 
 
 
 

「…それで、飛び出してきたと」
 全て話し終えたボクに、中将の溜息混じりの声が届く。
「子供なのは見た目だけではなかったのか?」
 そう言って、ボクの頭に手を乗せ髪の毛をクシャリと掻き乱す。
 コレは、ボクを心配する時の中将の癖。
 最初は子供扱いされてるんだと思ったけど、今ではそんなに嫌じゃない。
「……どうしても、許せなかったんです」
 だから、ボクも素直に話せる。
「誕生日を忘れるぐらい、鋼のなら日常だろう」
「…元に戻って…初めての誕生日なんです…二人で過ごす、初めての誕生日」
 やっと、心からの笑顔でお祝いができると思ったから…。
 兄さんも同じ気持ちだと思ってたから…。
 なのに…。
「兄さんの…バカ」
 

「バカで悪かったな」
 

「!?兄さん!?なんで…」
 そこには、いるはずのない兄さんの姿。
 言いたいコトはいっぱいあるけど、言葉にならない。
「お前を探しに来たんだよ!ったく、人の話も聞かずいきなり切りやがって」
「ちゃんと聞いたよ。兄さん帰れないって」
 そうだよ、ボクは間違いなくそう聞いたんだ。
「だぁーー!その続きを言う前にお前、電話切っただろうが!」
 え…続き…?
「"今日帰れなくなった。だから、アルがこっちに来い"って言おうとしたんだよ!」
 うわ、何この人…めっちゃ俺様。
 けれど、それは、ひどく兄さんらしい言い分。
「俺が帰れないならお前が来るしかないじゃん。なのに、電話は切るわ。こんな奴の所でグチってるわ。お前こそ俺の誕生日祝う気ねーだろ?」
 え…。
「………誕生日、覚えてたの?」
 …ビックリした。
「当ったり前だろ。アルが俺のために祝ってくれるんだぜ?こんな良い日は他にはない!」
 その理論はどうかと思うけど…。
 だけど、兄さんは忘れてなかったんだ。
 なんだ…そっかぁ……。
「…犬も喰わないとはよく言ったものだな」
「あ、中将…ごめんなさい」
「構わないよ。可愛い部下の悩みだ。いつだって相談にのろう」
 ボクが顔を上げた後、ニコヤカだった中将の視線が一変して兄さんに突き刺さる。
「ところで、鋼の。君はどーやってこの家に入ってきた」
「あ?そんなの決まってんじゃん。適当にドア作って……」
「ほぅ…」
 え…。
 ドア?
 作った!?
 また、兄さんってば!!
「やべ!アル、逃げるぞ!!」
 ボクが嗜めようとするよりも、兄さんの方が少しだけ早かった。
「わ、ちょっ、兄さん!?」
 グイと腕を引かれ、気付いた時にはボクの身体は兄さんの肩に担がれていた。
 その瞬間、耳元で小さく囁かれた言葉。
「…中将。ごめんなさーい。また明日!」
 兄さんの背中越しに見える中将に、小さくお辞儀をした後。
 ボクは、兄さんの身体を強く強く抱きしめた。
 さっきの言葉に応えるように。
 
 

  "悪かったな"
 
 

 それは、仲直りのしるし。
 
 
 
 
 
 

「ねえ、兄さん。どこ行くの?」
「家」
「??でも、仕事残ってるんじゃあ」
「やめた」
「は?」
「家帰る。んで、アルからのプレゼント貰って、アルの作ったメシ食って、ついでにデザートにアルも食う!そう決めた!」
「ハイハイ……もう、ホントに仕様がない兄さんだなぁ」
 

 だけど、今日は特別だから。
 もう怒らない。
 ケンカはしない。
 兄さんが好きだって言ってくれた笑顔で。
 一言だけ、伝えられれば。
 ボクは満足。
 
 

 お誕生日、おめでとう。
 

 ボクの大好きな、ただ一人の兄さんへ。
 
 
 
 
 


…これって、喧嘩ですかね?<聞くな
エドよりロイが目立ってるのは、最近の管理人の趣味です(笑)
なんだかとってもロイアルが気になる今日この頃…。
この後のお話しがエドアルお題15の「ケンカのあと」に続く予定です。
書けたらいいなぁ…仲直りHv

20040515

モドル