三角関係
「アール」
よく聞き慣れた、だけど、本来なら聞こえないはずの声が聞こえる。
「兄さん、どうしたの。中将に用事?」
ボクは書類をまとめていた手を止めて、ノックも無しに遠慮なく入ってきた人物を視界に留める。
鋼の錬金術師、エドワード=エルリック大佐。
そして、ボクの兄さん。
「あんな奴に用はない。アルに逢いに来たに決まってるだろ」
最初だけ心底嫌そうな顔で言って、兄さんはボクの隣りに座る。
「ボクに?3時間前に別れたばかりじゃないか」
今朝だって、一緒に家を出てココまで来たはずなんだけど…。
「…アイツ、いないの?」
キョロキョロと用心深く部屋を見渡す兄さんに笑いが零れる。
「クス。うん、今、来客中だから、そんな警戒しなくてもいいよ」
「ラッキー!!な、アル。折角だしちょっと外行こうぜ?」
「もぅ、兄さんってば……あ」
「ん?」
「職務怠慢だな、鋼の」
「げっ!」
「中将、お疲れ様です」
今、兄さんと睨み合ってるのはボクの上司であるロイ=マスタング中将。
「あぁ、留守にして済まなかったな」
兄さんからボクに視線を移した中将。
「留守って、たった30分ですよ?」
その瞳は嬉しそうに微笑んでボクを見ている。
「30分もだ!30分も君と離れていたんだぞ!」
まるで、シッポを振った犬みたい。
「30分ごときで何言ってんだよ!俺なんて3時間も我慢したんだぞ!」
こっちはシッポを尖らせた猫…。
「何を言うか。大体、君の職場はここではないはずだ!」
犬と猫の喧嘩…。
「うっせー!誰があんな辺鄙な場所で仕事が出来るかってんだ!!」
兄さん…場所と仕事はあんまり関係無いんじゃあ…。
「何を言う。あれだけ立派な研究室を与えてやったんだ。感謝して欲しいものだな」
うん…確かに立派だけど…。
「ほ〜…こっから徒歩1時間は余裕でかかる中央の端の端が立派な研究所かよ」
…だね。
でも、その片道1時間の道程を、飽きもせず毎日何往復もする兄さんにも困りものだよ。
仕事…大丈夫なのかな?
「君の破壊行動の被害が最小限で済むではないか。充分立派だ!」
中将も…仕事、溜まってるんだけどな。
「誰がいつ破壊行動なんてしたよ、あ!?」
そろそろ、止めてくれないかなぁ。
「いつもしているではないか。歩く破壊兵器が何を言うか!」
……あ、もうすぐお昼だ。
今日は何を食べようかなぁ。
「人間火炎放射器に言われたくねぇ!!」
そういえば、最近リザさん達に逢ってないなぁ。
…そうだ、久しぶりにリザさん達とランチしよ。
「なんだと!」
「なんだよ!」
そうと決まったら、早速誘いに行かなくちゃ。
「あ、ボク、お昼行くね」
「「はぁっ!?」」
リザさんに達どこにいるのかなぁ。
ブラックハヤテ号にも会いたいなぁ。
「アル!昼なら俺と…」
「アルフォンス!この前約束した店に…」
「は?約束!?この前っていつだよ!」
「フフフ。私とアルフォンスの秘密だよ」
「てめぇ、マジ殺す!今すぐ殺すっ!!」
あぁ、もう、どうしてこの二人はいつもいつも……あ。
「兄さん。お迎えが来たみたいだよ」
ドアを開けた先には、いつもはクールなはずの涼しげな瞳を吊り上げ、肩で大きく呼吸をするロスさんの姿。
「エ、エルリック大佐…今日という今日は絶対に逃がしませんよっ!!!」
「げ…ロス…少…佐」
「フッ。残念だったな。では、私はアルフォンスと二人きりで楽しいランチを…」
「あ、中将はそれが終わるまで休憩なしですよ」
「………何?」
机の上の書類は、朝から全然手付かずのまま。
「ちなみに、今日中に終わらせないと週末の約束も無くなります」
「何いぃっ!?」
途端に青褪める中将の顔。
「ちょっと待て!なんだ週末の約束って!兄ちゃん聞いてないぞ!?」
ロスさんに首根っこを掴まれたまま、バタバタと暴れる兄さん。
「だって言ってないもん」
「こら、アル!俺は許さないからなっ!!」
「大佐!大人しくして下さい!!」
「アルーーーー!!」
そのまま、ズルズルと引きずられていく兄さんに同情はしない。
むしろ、いつもいつも兄さんを捜して中央を走り回ってるロスさんの方が大変なんだから。
兄さんとロスさんの後姿を見送って、さっきから一人でブツブツ呟いてる人を見る。
「…1ヶ月ぶりだというのに…なぜこんな書類如きに、私とアルフォンスの愛の育みを邪魔されなければならぬのだ」
愛の育みって何だよ…もう。
あ〜…ちょっと重症?
仕方ないなぁ…。
「もし今日中に全部終わったら、週末の約束、お泊りにしてあげる」
「!!!!!!!!!!」
兄さんに言い訳、考えなくちゃなぁ。
まぁ、俄然やる気になった中将を見てると…たまには、いいかな。
三角関係でも、ロイアルお題なのでちょいロイアル気味…なのか?(笑)
裏っぽいものはまだ止めようと思ってるんで、ギャグで逝かせてもらいました。
ちなみに、リザさん達はちゃんとロイの下で働いてますよ。
ただ、今はちょっと別のお仕事をしてるというコトで…<苦しい言い訳だな
あ、ロスさんはエドの部下という設定です。
後、どうやらウチのアルは女性のコトを隊位ではなくさん付けで呼ぶのが好きみたいです。
それだけ、女性陣から甘やかされてる設定でv
20040413
モドル |