「あのね、パパ。ボク、プ○ダのバッグが欲しいなぁ〜v」
「可愛い岳のためなら何でも買ってあげるよ」
「本当に?嬉しい〜。パパ、大好きvv」
「岳!欲しい物があるなら僕が買ってあげるから、早まらないでくれっ!!」
「は?何言ってるの?」
「でも“パパ”って…」
「もう…今日は何の日?」
「今日は6月17日…あぁ、父の日…か」
「だから、ね♪」
「…………え?」
【Father’s Day】
「全く…なんで僕が…」
“ね♪“じゃないよ…岳(苦笑)
「どうしても、ダメ?」
可愛らしい上目遣いに、思わず頷いてしまいそうになるのを必死で耐える。
「…悪いけど…」
僕は君の恋人なんだよ。
なんだって、僕が岳のパパにならなきゃいけないんだ…。
「そっか…ボク、お父さんいないから…父の日ってあんまりわかんなくて…」
悲しげな笑顔で俯いた岳にハッとする。
「そう…だったね」
岳の家庭環境を理解したつもりでいたけど…。
「ごめん…岳。僕で良ければ何だってしてあげるよ」
「………ホント?」
岳は俯いたまま、尋ねてきた。
少し、声が震えてる…。
「あぁ…もちろんだよ」
相当、傷つけてしまったのだろうか…。
「よかったぁ。じゃあ、約束ね、パ・パv」
顔を上げた岳の嬉しそうな満面の笑み…。
あぁ…また、やられたわけ…ね(泣)
「ところでさぁ…父の日って何するの?」
「知らないでやりたがったのかい?」
「うん。だって、母の日と違ってマイナーじゃない?」
確かにそうだけど…。
「…母の日と似たようなものだよ」
そんなマイナーなもののために…僕は…(涙)
「じゃあ、お花とかプレゼントとかあげればいいの?」
「…いや、じつわね、母の日とちょっと違うところがあるんだ」
このままじゃ、僕には何のメリットもないんだ。
少しぐらい、僕の立場向上も考えてもいいだろう?
「なぁに?」
「“その日だけは、お父さんの言うことは絶対なんだよ“」
「…で、どうしてこーなるワケ!?」
不機嫌極まりない岳の声。
「岳が言い出したんじゃなかったかな」
僕はソファーに座ったまま、そしらぬ態度をとる。
ここで折れたら僕の計画まで潰れてしまうからね。
「………だからって、なんで…裸エプロンなんてしなくちゃいけないのさっ!?」
そりゃあ、僕も楽しみたいからに決まってるだろう。
「そう?似合ってて可愛いよ」
「ホント?ありがと…じゃなくてぇ〜〜!」
「父の日、してみたかったんじゃないの?」
利用できる時にしとかないと、いつも君には逃げられるからね。
「………………」
頬を膨らませて、僕を睨む。
「いやなら…そうだね。残念だけど、やめようか」
けど、どう見ても、それじゃ僕を煽るだけだよ…。
「ま、待ってよ…イヤなんて…言ってないもん…」
途端に、子供のように不安げな声を出す。
「じゃあ、どうするの?」
僕の中にある、小さな酷遇心が騒ぎ出す。
「……賢のイジワル」
「違うよ…“パパ“だろう?」
「え…」
「ほら…言ってごらん」
岳を引き寄せて、僕の膝の上に横抱きにする。
「……ぱ………ぱ?」
僕の胸に真っ赤になった顔をうずめ、小さな声で囁かれる言葉。
「フフ…“パパ”の言うこと、聞いてくれるね」
「え…」
僕は戸惑う岳の口唇を奪う。
触れるだけのキスから、徐々に深いものに変えていく。
歯列を割って、岳の口内を少し乱暴に奪っていく。
逃げる舌を無理やりに絡めると、少しづつ岳からも反応が返ってくる。
「ふ…あ…」
呼吸のタイミングを与えながら、更に深く求めると、岳の強張った躰が緩んでいく。
「……っふ」
ゆっくりと口唇を離すと、岳と僕を繋ぐ、透明な糸。
少し、乱暴過ぎたかなと思いつつ、虚ろな瞳の岳を見つめる。
「…岳…キスだけで…こんなにしちゃったの?」
素肌にエプロンだけの格好では隠しようがなく、岳は敏感な程に感じていた。
「やっ…だめぇ…」
さっきのキスで潤んだ瞳が力なく僕を睨む。
「何が…だめ?」
「こ…んなの…本当のパパはしないもん!」
「そりゃあ、僕は“本当のパパ“じゃないからね」
いつもはこんなに食い下がらないけど、今日は…。
「岳…自分で言い出したことだよ…責任は取れるだろう」
「け…ん…?」
疑問でいっぱいな瞳が僕を見つめる。
「…何度言えば分かるのかな?僕は誰だっけ?」
わざと大きなため息をつけば、
「え…あ……パパ…」
岳は教わったことを忠実に繰り返す。
まるで、怯えた子供のように。
「フフ…よくできました。ご褒美、あげるよ」
僕は岳の昂ぶった熱をエプロンで覆ったまま口に含む。
「んぁ、やっ、いやぁ。賢!」
逃げようとする腰を捕らえて、構わずに行為を続ける。
「なに…やだぁ…」
乾いた布が段々と濡れて、岳の形を露にしていく。
「っふ…んぁ…や、ぁ」
直接触れないのがじれったいのか、岳の指が僕の髪に触れ、抑えつけるような感じになる。
「こんなに濡らしてるのに…嫌なわけないよね」
「も…こんなの、やだぁ…」
潤ませた瞳で僕を見つめる岳。
「何が?」
相変わらず、君はずるいね。
僕が君に甘いのを知ってるくせに。
「…賢…てばぁ…」
岳の甘えた声。
いつも、この声に堕とされるんだ。
「……入れて欲しいの?」
僕の問いに、岳は頷く。
「そう…」
でもね、今日は別だよ。
「じゃあ、オネダリしてごらん」
僕は岳を抱きかかえて、今度はソファーの隅に座らせる。
そして、僕はソファーの反対側に座る。
「え…な、に…」
岳は不安げに僕を見つめている。
「ほら…"ボクの中に賢のを入れて"…だろ?」
岳が好きだと言った笑顔を作って、僕は言う。
「なんでっ!?」
「じゃあ、自分でするかい?」
自慰を極端に嫌う岳。
「…………っ」
それを知ってるから、あえて天秤にかける。
「フフ…嫌なら、言うんだね」
勝機がぶら下がってる天秤にね。
「っ…………賢…の…」
悔しそうに口唇を噛んで、岳は僕を睨む。
「僕の?」
それでも、言わずにはいられないだろう?
「……ボクの…な、かに…いれて…」
「僕が欲しいの?」
紅くした瞳がキツイ眼差しを僕に向けた。
「…いや…って言ったら?」
「っ………………もうやだっ!なんでそんなイヂワルするのっ!?」
堪えきれなくなった涙が、碧い瞳を濡らしていく。
「意地悪?どうしてそう思うのさ?」
「だって…いつもはもっと優しいもん!ボクが嫌がるコトしないもん!!」
僕はため息をつきながら、岳の隣に座りなおす。
「…それは、僕が岳の恋人だからだよ」
岳が安心するように頭を撫でながら、僕は微笑む。
「え……」
「でも、今日は違うんだろう?」
岳と付き合い始めて、だいぶ忍耐力がついたはずなんだけど…。
「賢…もしか…して…」
「僕は、岳の"パパ"らしいからね」
さすがに、今日のは……。
「…お、こ…って…」
僕は、岳直伝の笑顔を浮かべて釘を刺す。
「生憎、"子供には厳しく"ってのがウチの方針なんだよ、岳」
そう…僕は怒ってるんだよ。
「ごめん…なさい」
岳が謝るなんて滅多にないこと。
もう少し、焦らしてみるのもいいかもしれない。
「どうしようかな…」
だけど、怒りはとっくに収まってるんだよね。
今までだって、僕が岳に怒るなんて数える程もなかったのに。
「もう、ワガママ言わないから…パパなんていらないから…」
岳は猫みたいに僕に躰を寄せてくる。
「だから…キライにならないで」
岳の本心。
一人にされるのをすごく嫌う。
置いていかれるのにすごく怯える。
「大丈夫だよ」
僕がどれだけ言っても、岳の心は癒されない。
家庭環境。
幼い頃の体験。
それは、岳の意思だけではどうにもならないもの。
「僕は君の恋人だよ。君を置いてどこかへ行ったりしない」
君の父親のように…。
おかげで、岳は愛に臆病になった。
そして、悔しいことに、僕だけでは岳を癒せない。
「それに、こんなに泣き虫な岳を一人にしておけるわけがないだろう」
複雑に入り組んだ岳の心。
僕はそんな岳を好きになった。
守りたい、愛したい…そして、なにより教えてあげたかった。
「君は、一人じゃないんだよ」
君の父親は君を愛してないわけじゃない。
子供を愛さない親なんていない。
だから、誤解しないでほしいんだ。
「岳…本当の"パパ"に電話してごらん」
一瞬、抱きしめていた岳の躰が強張る。
「絶対に喜ぶよ…お父さん」
僕の背中に回されていた腕に力がこもっていく。
「…賢が、傍にいてくれたら……する」
「あぁ…もちろんだよ…でも、その前に…」
「え…?」
「続き…してくれないと、ものすごく困るんだけどな」
こんな格好の岳を前にオアズケなんて、僕の忍耐力も限界が…。
まぁ、させたのは僕だけど…。
「………バカv」
岳の返事は優しい笑顔と甘いキス。
「………あ…お父さん…うん、ボク…」
ベッドの中で僕の腕を枕にしたまま、岳は受話器を手にした。
「うん……うん……」
受話器を持つ反対の手は僕にしっかりと繋がれてる。
「えと…あのね……今日…父の日…だから…」
そこから、言葉を失いかけた岳に言い聞かすように、繋いだ手に力を込める。
「………」
岳は小さく頷いて、僕を見つめたままゆっくりと、でもはっきりした口調で言った。
「お父さん…ボクをこの世界に創ってくれて…ありがとう」
「お父さんのおかげで、ボクはとても大事な人と出逢えたんだ…」
「ボクね…今、この瞬間、この場所にいられて、すごく幸せだよ」
「ボク、お父さんのこと…」
そこから先は、言わせなかった。
僕が岳の口唇を奪って、電話を切ったからね。
あとは…ご想像におまかせするよ。
<END>
(C)20010615 志月深結
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