もうすぐ、クリスマス。
 街中が赤と緑で彩られていく…。
 どこからか聞こえてくる、定番のクリスマスソング。
 すれ違う人は、みんな楽しそうに笑ってる。
 

 ボクはクリスマスが…大嫌い。
 
 
 
 
 

【MERRY X'MAS】
 
 
 
 
 

「お、やっと来た!」
 パソコンルームのドアを開けると、みんな集まって何か話してた。
「なあに?」
「もうすぐクリスマスじゃん。だから、みんなでパーティしよーぜ!」
 あぁ…クリスマス…ね。
「賢君も誘って、デジタルワールドでパーティしようって話してたの」
 くだらない…。
「へえ……いいんじゃない」
 ………浮かれちゃって、バカみたい。
「…岳さんは…何か予定でも?」
 唐突に伊織クンに指摘された。
「どうして?」
 別に…断ってもいいんだけどね…。
「どこか困ってるように見えたので…」
 …顔に出さないように気を付けてたのに…相変わらず鋭いなぁ(苦笑)
「そんなことないよ。楽しみだね…あ、ボク、今日は用事が出来ちゃったんだ。だから帰るね」
 
 

 学校からの帰り道…ふとショーウィンドウの前で足を止める。
 ディスプレイにはサンタやトナカイ…どれもこれもクリスマス。
 
 

       『ボクのトコにはサンタさん…来てくれないんだね…』
 
 

 この時期はいつもそう…。
 一人になりたくなる。
 今日だってそう…別に用事なんてない。
 誰もいない家に帰るだけ…。
 だけど…家に帰る気にはなれなくて近くの公園に寄ってみる。
 ベンチに座って、空を見上げる。
 
 

       『ごめんね…こうするしかなかったの』
 
 

 この時期…お母さんはあまり家に帰ってこない。
 ボクと顔を合わせるのが辛いんだろうね…。
 
 

       『岳…会いに行くから』
 
 

 毎年、お兄ちゃんは会いに来てくれた。
 毎日、電話もしてくれた…。
 だけど…お兄ちゃんだって、ずっと一人。
 
 

       『………すまない』
 
 

 どうしてボクに謝るの?
 友達が言ってたんだよ…サンタさんはお父さんなんだって。
 
 

       『ねえ、サンタさん。ボクはね…こんなプレゼントなんていらないよ』
 
 

 一年で一番最悪の日。
「…サイテー」
 ボクだけが…こだわってる…。
 いつまでも、過去の思い出を引きずってる。
 こんなボク…大嫌い。
 
 
 
 
 

 見上げた空はすっかり暗くなって…まるでボクの心のよう…。
「岳…君?」
 突然呼ばれた名前。
 振り向くと、そこには…よく知った顔。
「…丈サン…」
「やっぱり岳君か。どうしたんだい?」
「…丈サンこそこんな時間に…塾帰りですか?」
 この人は苦手…。
「うん。まぁ、そんなところだね」
 ボクにはないものを持ってるから…。
「岳君こそ帰らないの?お母さん、心配してるんじゃない?」
 自分の帰りを待っていてくれるお母さん。
 ずっと一緒に育ってきたお兄ちゃん。
 そして、家族を守る…お父さん。
「…帰っても誰もいないから」
 ボクが欲しい物を、この人は全部持っている。
「ねえ、丈サン…今からウチに来ませんか?」
 少しぐらい…奪ったって…いいでしょう。
 
 
 
 
 

「どうぞ、上がって下さい」
「あ、じゃあ…お邪魔します」
「クス…どうせ、ボクしかいないんだから、遠慮しないでください」
 丈サンをリビングに通して、冷蔵庫にあったジュースを出す。
「ねえ、丈サン…クリスマスはどうするの?」
「え、クリスマス?じつわ、その日は模擬試験なんだ。ハハ、寂しいだろ」
 模擬試験…この人らしいね…。
「大変ですね…でも、丈サンには待っててくれる家族がいるじゃないですか」
「…岳君にだっているじゃないか」
 本当に…素直な人…優しい人…誠実な人…そして…偽善者…。
「………ボク…クリスマスは丈サンと一緒にいたいな」
 丈サンの肩にもたれかかるように頭を預ける。
「え!?あ、の…岳君!?」
 声、裏返してまで驚かなくても…本当に、この人らしい。
「…ダメですか?」
 少し瞳を潤ませて、丈サンを見つめる。
「え!?えと…ダメじゃないんだけど…その…」
 だんだん、顔が赤くなってる…。
 誠実っていうより、純真の方が似合ってるんじゃない?
「…丈サンは…ボクのこと…嫌い?」
「そ、そんなわけないだろうっ!」
 どんなに真っ赤な顔してても、絶対に瞳は逸らさない。
「じゃあ、好き?」
 さっきよりも顔を近づけて、丈サンを見つめる。
「……す…好きだよ」
 どんなに恥ずかしくても、絶対に言葉にしてくれる。
「クス…嬉しいな…」
 それが、誠実。
「…丈サン……しよ?」
 ………単純な男。
 
 

 ソファーの上で丈サンを押し倒すように組み敷く。
「た、ける君!?」
「…ボクじゃ…いや?」
「そうじゃなくて!」
 耳まで赤くしちゃって…丈サンって、こんなに純粋なんだ。
「…ボクは、丈サンとセックスしたい…」
 ………ボクが………汚れすぎたのかな……。
「な、なんでこんなこと!?」
 イライラする。
 セックスに理由を求めるなんて、バカみたい。
 単なる遊び。
 みんな…そうだった…。
「理由なんて…どうでもいいでしょ…」
 丈サンの口唇をキスでふさぐ。
「た、た、岳君っ!?」
「いいから、ボクを抱いてよ!」
 見下ろした丈サンの顔。
 ボクを見つめる瞳。
 そのまま伸ばされた指がボクの頬に触れる。
「…岳君……泣かないで…」
 丈サンの指を伝うボクの涙。
 なんで…涙なんて…。
「君のそんな顔…見たくないよ」
 真剣な眼差し。
 この人は…どこまでも純粋で、誠実で…綺麗な人。
「……帰って…」
 ボクは…この視線に耐えられない。
「でも…」
 それでもボクに触れようとする。
 ボクは丈サンの躰から離れ
「帰って!!」
 それを遮るように叫ぶ。
「………ごめんね」
 小さく呟いて、丈サンは部屋を出て行った。
 
 
 

 誘ったのはボク。

 悪いのはボク。
 
 

 なんで?
 どうして?
 なんで、あの人が謝るの?
 どうして、ボクは泣いたの?
 
 
 

 答は…簡単。
 
 
 

 ボクはあの人に"嫉妬"した。
 

 ボクにないものを持ってるあの人に。
 

 ボクはあの人がうらやましかった。
 

 ボクはあの人になりたかった。
 

 綺麗で純粋なあの人に…。
 

 ボクとは違うあの人に…。
 

 ボクは……。
 
 
 
 

 丈サンが………好き。
 
 
 
 
 
 

 あれから毎日、メールが届いた。
 だけど、ボクは返事を出さない。
 

 あれから毎日、電話があった。
 だけど、ボクはそれに出ない。
 

 この気持ちに気付かれちゃダメ。
 

 ボクは…丈サンみたいに綺麗じゃないから。
 

 ボクは丈サンを困らせる。
 

 ボクは丈サンを汚してしまう。
 

 ボクは……。
 
 
 
 

 丈サンには………必要ない存在。
 
 
 
 
 
 

 今日はクリスマス。
 あんなに嫌いな日だったのに、別に何も感じない。
 いつものように目が覚めて、1日が始まる。
 テーブルには用意されたご飯とメモ用紙。
 "今日も遅くなります"の一言だけ…。
 …あぁ、そういえば、今日はパーティだっけ。
 行くの…やめようかな。
 別に、ボクがいなくったってみんなは騒げればいいんだろうし…。
 断りの電話をしようと思って、受話器を持った瞬間、それが鳴り始めた。
「はい、高石です」
 迂闊だった。
 いつも、出ないようにしてたのに…。
『…あ、岳君かい?』
 どうしていつも…肝心な時に…ダメなんだろう。
「…丈…サン」
 声が…震える。
『今、岳君の家の近くなんだ…会える…かな?』
 会いたいよ。
「…今から…用事が…」
 でも…会ったらダメなんだ…。
『少しでいいんだ…』
 どうして…そんな…期待…させるの?
「ボクは…会う理由なんて…」
 電話を切ろうと受話器を離した瞬間、聞こえた言葉。
『僕が君に会いたいんだっ!』
 …ボクは…電話を切った。
 
 
 

 きっと、丈サンはボクを嫌いになる。
 これでいいんだよ。
 ボクはヒドイ人間だから…。
 いい子を装って、みんなを騙してる。
 平気で誰とでも寝られる。
 平気で人を傷つける。
 丈サンとは釣り合うはずがないんだから…。
 
 

 …なのに…どうして…。
 
 
 
 
 
 

 どうして、涙が止まらないの……?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

    -ドンドンッ-
 

 突然、ドアを激しく叩く音。
「岳君!!」
 直後に聞こえた声で、ボクの躰は動かなくなる。
 

    -ドンドンッ-
 

「いるんだろっ!」

 瞳を閉じてしまえばいい。
 耳を塞いでしまえばいい。

 でも…浮かんでくるのは…。
 

    -ドンドンッ-
 

「岳く…!」
 ゆっくりドアを開けると、予想に反して、怒った顔の丈サンがいた。
「…近所迷惑…ですよ…」
「メールの返事もこない。電話も繋いでもらえない。繋がってもいきなり切られる…僕は怒ってるんだよ」
 ボクなんかのために怒ってくれるんだ…。
「…いいんですか…模試…ボクなんかに構ってる暇…ないでしょ…」
 本当に優しいんだね…丈サンは。
「そうじゃなくてっ!」
 離れようとした躰を引き寄せられ、抱きしめられた。
「…丈…サン?」
 予想外の行動に、ボクは驚かされてばっかり。
「模試の時間なんてとっくに過ぎてる…」
 ボクの頬に触れる耳が熱い。
 丈サン…どんな顔してるんだろう。
「僕がどんな気持ちでここにいるか、考えてほしいんだ!」
 なに……。
 なに言ってるの?
「そんなの…わかんないよ…」
 丈サンの気持ちなんて…そんなの…ボクが聞きたいぐらいだよ…。
「ぼ、僕と一緒にクリスマスのお祝いをしよう!」
「………どうして…」
 ボクを嫌いになったんじゃないの?
「僕は………」
 さっきより強く抱きしめられる。
 
 
 

「君が好きなんだ!!」
 
 
 

 なに…。
 今…の…どういう…。
 躰中が熱くなっていく。
「…うそ」
 声が掠れる。
 躰が震える。
「…そんな…ウソ…やめてよぉ……」
 丈サンから離れなきゃ…。
 この腕の中にいたら…ボクは壊れてしまう。
 丈サンを壊して…ボクも壊れてしまう。
「嘘じゃない!」
 だけど、逃げようとした肩を掴まれて、そのまま壁に押しつけられる。
 不意にぶつかった丈サンの視線は真剣そのもので…。
 ボクはその視線に耐えられない。
「ひどいなぁ…ボクをからかってるんでしょ…」
 どうしよう…上手く笑えない。
「僕は冗談でこんなこと言わないよ」
 いつもなら、軽く笑って…やり過ごせるのに…。
「…冗談だって…言って…」
 どうしても…笑えない。
「好きだ!僕は"高石岳"が好きだ!!」
「っ……ボクはキライ…だいきらい!」
 嫌いって…言ってよ。
「ボクは"闇"なんだ!丈サンと釣り合わない!丈サンには明るい場所が…ボクにはない"光"があるのにっ!!」
 明るい場所で…丈サンは光を浴びれる。
 ボクがいたら…光は消えてしまう…。
「…その光は…君を照らしてあげられないのか?」
「…………」
「そんなに弱々しい光なら、僕はいらないよ…君と一緒の、闇でいい」
「!?…なんで…だめ…どうしてボクを選ぶの!?」
 もう…イヤだ。
 叫び出してしまいそう…。
 …あなたが…好き…って。
「じゃあ、なぜ僕を選ばないんだいっ!?」
 …選ばないんじゃないよ…ボクは選べないんだ…。
「あの時、本当は君を抱きたかった…でも…君の気持ちが分からなかったから抱けなかった!」
 
 

 ……言わないで…。
 
 

「僕は」
 

 これ以上…ボクを…壊さないで。
 

「君を」
 

 だめ…。
 

「抱きたい」
 

 もう………止まらない。
 
 
 
 
 

「 …………………………すき 」
 
 
 
 
 
 
 

 抱き合って、キスをする。
 何度も、何度も、繰り返される口づけ。
 場所を変えて、角度を変えて、深さを変えて…。
 触れた舌の感触に酔いながら、絡めていく。
 息をすることさえ忘れてしまうほどの、甘い、痺れ。
「ひ、ぁん!」
 キスに夢中になっていた躰に突然の刺激。
「感じて…くれてる?」
「……ぅん」
 立っていられなくなって、壁にすがって落ちていく躰。
「いや…キス…して」
 一瞬でも、離れていたくない。
 丈サンの首に腕を回して、引き寄せる。
「もっと僕に教えて…君のこと、全部」
 一枚ずつ、丁寧に脱がされていく服。
「…ボクにも…教えて…」
 
 

 ボクを愛して。
 

 身体を満たして。
 

 心を揺らして。
 
 
 

 ……アナタを感じさせて。
 
 

 このクリスマスの日に…。

 ボクを包む闇を…光に変えて。

 ひとりっぼっちのボクを…見つけてくれた。

 クリスマスを…一緒に…。
 
 

 ………ありがとう。
 
 
 
 
 

「……離さないで……ボクを…一人にしないで…」
 

 壊れたボク。
 ハグルマを無くした機械みたいに、求め続ける。
 ただ、丈サンが欲しくて…。
 丈サンに好きでいてもらいたくて…。
 
 
 
 

「ずっと傍にいるから…」
 

 壊されたアナタ。
 ネジを無くした機械みたいに、停まってしまう。
 ただ、ボクの傍にいて欲しくて…。
 ボクを好きでいてもらいたくて…。
 
 
 
 

『            』
 
 
 
 
 

 それは、二人が交わした…聖夜の誓い。
 
 







クリスマスファンタジーのCD聴きながらこんなの考えたの深結だけでしょう(笑)
あのCDでなぜダーク!?なぜ、丈岳!?
疑問ばかりが残されてしまいました(笑)
 
自分の中の闇を恨んで、でも闇に魅了されてるのが岳です。
そして、光を憎み、嫌悪し、憧れているのも岳です。
岳は自分の中の闇に取りこまれ、光に気付かないふりをしてる子。
だから、より繊細で弱い子です。
 
岳サマの相手は色々考えたんですが、やっぱり年上だろうってことで丈・光子郎しか思いつかなかったんですよ。
あ、別格で賢かなぁ…(笑)
後のはみんな岳サマのペースに巻き込まれそうなタイプばっかり(苦笑)
そうなると、やっぱり"誠実"な彼かなぁ…ということで。
でも、なんかめっさ長くなって…どっか削れば良かったのか?
 
あ、丈が嫌な人は他のキャラに当てはめてご覧下さい(爆)
 
(C) 20001130 志月深結
 

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