自慢じゃないけど、僕は勉強が出来る方だと思う。
っていうか、勉強以外に出来るものがあまりないんだけどね。
それでも、どんな方程式だって解く自信がある。
つい最近まで、そう思ってた…。
【解読不能な方程式】
僕はとっても困っている。
それは…。
「丈サン。コレは?」
僕の隣りで算数のドリルとにらめっこをしているのは岳君。
そう…最近、僕の塾のない日には必ずといっていいほど岳君がウチにやってくる。
「あぁ、これはこの公式を…」
…って、僕は困ってるんだっ!
よし、今日こそは言うぞ!!
「…岳君…どうして急に僕のトコに来るんだい?」
「え。だって、丈サンの教え方、分かりやすいんだもん」
彼にニッコリと微笑まれると、つられて僕まで笑ってしまう。
「あ、ありがとう…」
そっか、嬉しいなぁ…って、これがダメなんだぁぁ〜!
「だからそーじゃなくて、なんで僕が岳君の勉強を見なきゃいけないんだ?」
僕にだって受験勉強が…。
「……丈サンは…ボクのこと…迷惑」
大きな瞳を伏せぎがちに僕を見つめる。
「いや、そうじゃなくて…なんで僕なんだい?ヤマトとか光子郎がいるだろう?」
「…ボク、丈サンに教えてもらいたいんだもん」
そのまま、上目遣いで見つめられる。
「え、あの、その…」
こんな表情で見つめられると…。
「ダメ?」
「…いや…いいんだ」
…逆らえるワケがないじゃないか。
「よかった♪」
全く、ヤマトはどういう教育してるんだよ。
っと…そっか…別に一緒に暮らしてるわけじゃないんだよな…。
ずっと、お母さんと二人で…。
僕は…シン兄さんしかいないから分からないけど…弟って…こんな感じなのかな。
-トントン-
「岳君。宿題できた?」
そう言いながら入ってきたのはシン兄さん。
「休憩も必要だろ」
片手にはケーキと紅茶を持って。
「あ、お邪魔してます」
「丈が分かんなかったら、僕が教えてあげるからね」
兄さんは岳君の頭を撫でる。
「ありがとうございます。でも、丈サン、とっても分かりやすく教えてくれるから…」
岳君も、なんで…ニコニコ笑ってるんだ。
「ん〜可愛いなぁ。丈もこれぐらい素直だといいんだけどな〜」
「もういいから出ていってよ、兄さん!」
それに、なんで僕はこんなにイラついてるんだ?
「分かったよ。それじゃ、岳君、ゆっくりしていってね」
「はい」
全く…なんで僕がこんなめに…。
「…せっかくだし休憩にしようか」
「うん!」
岳君は嬉しそうにケーキにパクつく。
その姿を見ると、まだまだ子供だなって思う。
最近、岳君は…年上から好かれるタイプなんだって分かった。
僕のお母さんも岳君のことを気に入ってたし…。
確かに、甘え上手な一面があるし、何よりその容姿。
白い肌に青い瞳…それに金色の髪。
ヤマトもそうなんだけど、少し違う。
それは、あの笑顔。
岳君の笑顔は、見るもの全部を魅了してる。
なのに…時々、信じられないような大人びた表情をする時がある。
それは、今の選ばれし子供達と一緒にいる時。
…そりゃ、過去の経験から岳君が先導することもあるかもしれないけど…。
それで本当に楽しいのかな?
守られてばかりだった3年前の彼は、もうどこにもいない。
だけど、君はまだ守られるべき年齢の子供で…。
……あーー僕は何がいいたいんだ!?
「丈サン…どうかした?」
「え?あ、なんでもないよ。いやーこのケーキおいしいね」
「うん」
そう言って笑った岳君の頬には生クリーム。
「やっぱり、まだ子供だね」
なんだか、温かい気持ちになる。
自然にこぼれてくる笑いを我慢しながら、生クリームを取ってあげる。
「あ、ありがと」
「あんまり無理しなくて…いいんだよ」
僕が言える、精一杯の気持ち。
「…丈サンは優しいんだね…やっぱり、ボク、丈サンがいちばん好き」
「ハハ。ありがと…えぇ!?」
今、なんてっ!?
「え、もうこんな時間?ボク帰るね。また来てもイイでしょ?」
「………」
僕は頷くだけしかできなくて…。
「それじゃ、またね、丈サン♪」
とびきりの笑顔を僕に向けて岳君は部屋から出ていった。
遠くでシン兄さんの声がして、玄関のドアが締まる音が聞こえる…。
「こら、丈。岳君帰るのに見送りぐらい…って、お前、顔真っ赤だぞ!大丈夫か!?」
こうして、岳君は、僕に宿題を残していった。
簡単には解けそうにない方程式を…。