とある一大イベントの前日、可愛い弟がこんなことを言い出した。
「ねぇ、お兄ちゃん。チョコの作り方、教えてくれない?」
「チョコォォー??」
「うん♪」
 
 
 

【ひとりでできるもん】
 
 
 
 

「で、湯銭で溶かしたチョコを型に流し込む。後は冷蔵庫にいれて固めれば完成だ」
 岳の頼みを断るわけにもいかず、俺は台所に立った。
「ふぅん…案外、簡単なんだね」
 岳はチョコをかき混ぜながら楽しそうに笑う。
 …俺は、気が気じゃないってのに…。
「…な、なぁ、岳?チョコなんてどうするんだ?」
 明日はバレンタイン…。
 手作りチョコなんて…誰かにやるのか?
「あのね、大輔クンにあげるの」
「大輔にっ!?」
 よりにもよって、相手はあの大輔なのかっ!?
「うん。あと、伊織クンと京サンとヒカリちゃんと…」
 …は?
 岳は指折り数えつつ、見知った名前を言い並べていく。
「岳…お前、全員にやるのか?」
「え?だって、バレンタインってお世話になった人に感謝のチョコをあげる日なんでしょう?」
「お前、それ…誰に聞いたんだ?」
 …誰だ?
 岳にそんなデタラメを教えた奴はっ!
「大輔クン」
 大輔……………(怒)
「それに、手作りの方が"ありがとう"がいっぱいなんでしょ?」
 自慢気に笑う弟に、"それは違う"なんて言えない…。
 憎むべきは大輔…。
 そこまでして岳の手作りチョコが欲しいのか…。
 フフフ…そうか…じゃあ、俺からもたっぷりと愛を込めてやろうじゃないか…。
 
 
 
 

バレンタイン当日
 
 
 
 

「はい、大輔クン」
「おぉぉぉぉーーーーサンキュゥー岳ーーーーーっ!!!!」
「あ、ヒカリちゃんにもね」
「なんで岳君が?」
「?」
「バレンタインは、女の子が好きな人にチョコを渡す日だよ?」
「え?」
「…どういうこと…大輔クン?」
「あ、いや…その…」
 
 
 
 
 
 

 はぁ…今日は最低な一日だ…。
 チョコなんていらないって言ってるのに…知らないうちにカバンに入ってたり、机の中に入ってたりと…。
 俺が欲しいのは一つだけだってのに…。
 重い足取りで家に帰る。
 すると、ドアの前に俺が唯一チョコを貰いたい人物の姿があった。
「あ、お兄ちゃん」
「岳。どうしたんだ?」
「うん…あのね…」
 少し口篭もるタケルを見て、とにかく中に入るように勧めた。
 

「…で?何かあったのか?」
 リビングのテーブルにタケルと向き合う形で座る。
「あの…ボク…ごめんなさい」
 ???
 突然、謝られても…。
「どうした?謝らなきゃいけないことでもしたのか?」
 岳は泣きそうな瞳をして見つめてくる。
「だって、バレンタインって好きな人にチョコをあげる日なんでしょう?ボク、知らなくて…」
 そうか…そういうことか…。
「…岳は知らなかったんだろう?だったら、謝ることないよ」
「でも、ボク…みんなにチョコあげちゃった…ホントならお兄ちゃんだけなのに…」
 岳…。
「…俺は、その言葉だけで充分だよ」
 本当に、充分すぎるほど嬉しいよ。
「だから…ちゃんとボク一人で作ろうと思ったんだ…でも…失敗しちゃって…ボク…」
 よく見ると、その指に何枚もバンソウコウが貼られている。
「ケガしたのかっ!?」
 岳が慌てて隠そうとする手を掴む。
「え、あ…ちょっとヤケドしちゃって…ごめんなさい」
「ちゃんと手当てしたのか!?」
 もう、チョコとかそんな問題じゃない。
 俺は救急箱を持ってきて、岳の手当てを始める。
 
 

 応急処置を終えた指に包帯を巻いてやる。
「火傷の傷にバンソウコウなんて貼ってちゃ、悪化する一方だろう」
 椅子に座って、静かに手当てを受ける岳を見つめる。
「…ごめんなさい…」
 岳はうつむいたまま、さっきよりも弱々しい声で呟いた。
「あ…いや…これからは気をつけてくれよ」
 余計に落ちこませてどうする、俺!
「ごめん…ボク…お兄ちゃんにあげられるもの…なにもないよぉ…」
 大きな瞳から小さな宝石のような涙をこぼす。
「もう貰ったよ」
 俺はそんな岳を抱きしめる。
「バレンタインって言うのは、好きな人に想いを告げる日なんだよ…別に何かをあげなきゃいけないわけじゃない」
「…本当…?」
「あぁ。岳は俺に"想い"をくれただろ」
 額をくっつけて、岳が安心できるように笑ってやる。
「…うん!」
 今日、初めて見る岳の笑顔は、いつもの何倍も可愛かった。
「そうだ。ちょっと待ってな」
 昨日あれから…。
 冷蔵庫にしまっておいたチョコケーキを取り出す。
「どうしたの、それ?」
「昨日の残ったチョコで作ってみました(笑)」
 俺はケーキを岳の目の前に差し出す。
「ハッピーバレンタイン」
「ボクに…くれるの?」
「お前以外、誰にやるんだよ?」
「ありがとう!」
 そう、その笑顔が好きなんだ。
 岳には、笑顔が一番似合う。
 
 

「とってもおいしいよ、お兄ちゃん!」
 幸せそうにケーキを食べる岳を見ていると、こっちまで幸せになる。
「そりゃそうだろ。なんたって"愛情"っていう隠し味があるからな」
「うん」
「あ…」
 岳の頬についたケーキを舌で舐め取る。
「やっぱり甘いな」
 甘いものは、少し苦手だ。
「ねぇ、お兄ちゃん。もっと甘いの、食べたくなぁい?」
 でも、チョコより甘いお誘いにはかなわない。
 それに、俺が一番好きなものだしな。
「腹いっぱい食いたい気分だな」
 チョコの味のキスをして、岳を抱き上げベッドに運ぶ。
「ボクも、お腹いっぱいにしてね」
 俺の首元に腕を回して、素直に躰を預けてくる。
「絶対に残すなよ」
 岳の柔らかな髪の毛にキスをしてから、二人でベッドに躰を沈める…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「でも、大輔クン。なんであんなウソついたんだろう?」
 枕を抱いてうつ伏せになっている岳が俺を見る。
「お前のこと、からかったんだろ?」
 ここまで鈍いと、逆に大輔が可哀相になってくるが…俺を出し抜こうなんて100年早いぞ!
「え、そうなの?ひっどいなぁ!」
「クク…安心しろ。アイツにはそれなりの罰があるから」
 想像すると、思わず笑いが零れる。
「お兄ちゃん、何かしたの?」
「じつわな、大輔のチョコにタバスコを目一杯入れてやった」
「大輔クン、可哀相…」
 岳も、そう言ったものの教える気はないらしい。
 まぁ、当然の報いだな。
「そんなことより、俺はまだ腹いっぱいになってないぞ」
 今日は全部食い尽くしてやるからな。
「え?ちょ、お兄ちゃん、もう4回…」
「残さないって約束だろう?」
「…しょうがないなぁ」
 言葉とは裏腹に岳の笑顔が俺を見つめた。
「いただきます」
 そして、俺は甘い甘いゴチソウを食べ始める…。
 
 
 
 
 
 

その頃、本宮家では…。
 

「岳には怒られたけど、念願の手作りチョコだもんねー!!」
 何も知らず、嬉しそうにチョコをパクつく大輔の姿が…。
 
 
 
 

「!@☆□×○?」
 
 
 
 
 
 

 ………ご愁傷サマ。
 
 



ぐはぁー。
また、なんちゅータイトルを…。
某N○Kのパクリやん…。
しかも、テーマがバレンタインって…(泣)
この、真夏日に…ホントに申し訳ございません。
最近、チョコブームで、毎日食べてたらこんなネタが(笑)
多分、バレンタインシーズンには違うCPで書いていることでしょう(爆)
でも、小5にしてバレンタインを知らない岳…。
完全純粋自然培養?
箱入りにもほどがあるぞーーー!

(C) 20000818 志月深結
 

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