【ヒーローはどっち?】
 
 
 

 拓也達はまだ慣れないデジタルワールドを探索していた。
 ここ数時間の間に色々なことが起こりすぎて、誰もが混乱と疲労を隠せないまま、気が付けば夜になっていた。
 ポコモンとネーモンの勧めで、今日は炎の街に泊まることになった。
 

 全員分のベッドを準備し終わった後、拓也がその異変に気付く。
「なぁ。友樹、どこいったんだ?」
 さっきまで傍にいたはずの友樹の姿が見当たらない。
 拓也はもう寝る気マンマンの泉に声をかける。
「さぁ、トイレとかじゃない?」
 泉は横になったまま答えた。
「大丈夫よ。すぐ帰ってくるって」
「……俺、ちょっと探してくる!」
 最初っから泉の言葉なんて聞いてなかったのか、拓也は部屋を出ていく。
「あ、ちょっと拓也!?」
「先に寝てていいからーー!」
 走り去りながら叫んだ言葉には見事にエコーが効いていた。
「…あの過保護っぷりは異常だわね」
「「「…うん」」」
 残された泉達の心境は一致していた。
 
 
 

「友樹〜!」
 拓也は少し離れた森の中に来ていた。
「アイツどこいったんだよ…泣いてなきゃいいけど」
 嫌な予感を感じ、ますます早く見つけてやらないと、と拓也は声を張り上げた。
 
 
 
 
 
 
 

 一方、その頃の友樹はといえば…。
「うわぁ〜〜ん。ここどこぉ〜?拓也おにいちゃ〜〜ん」
 拓也の予感は的中し、迷子になって泣いていた。
「っう、ひっく…まっくら…こわいよぉ」
 右も左も上も下も大きな木々によって光は遮られ、小さな友樹の方向感覚は狂いっぱなしだ。
 まさかこんな所で迷子になるとは、本人も思っていなかったらしく目印も付けていない。
 
 

  -ガサッ-
 
 

 突然、目の前の闇から物音が響く。
「ひっ!?」
 テレビなんかでよく見るお約束のパターンかもしれないが、今の友樹にはそれどころではない。
 ガサガサと音を立てて、影は友樹に近づいてくる。
「やだあぁ〜!」
 その場に座りこんでしまうと、後はただひたすら泣き叫ぶ友樹。
「…お前」
 影は友樹の目の前に来ると、ゆっくりと腕を伸ばす。
「あっちいけぇ〜!ボクおいしくないもん!!純平おにいちゃんの方がおいしいんだもん!!!」
 ある意味失礼極まりないが、もう、パニック寸前の友樹には関係なかった。
 影は暴れる友樹を抱きしめて、耳元で静かに囁いた。
「落ち着け、俺だよ」
 聞き覚えのある声に友樹は抵抗を止める。
「………輝二おにいちゃん?」
 涙で溢れた瞳ではハッキリは見えなかったが、ボヤけた視界の向こうにいたのは、数時間前に助けてもらった輝二だった。
「うぁ…うわぁぁ〜〜ん」
 輝二だと分かった途端、安心したのか、また友樹の涙が溢れてくる。
「わ、こら、泣くなよ」
 輝二はオロオロしながらも友樹の小さな身体を抱きしめる。
「ふ…っく…こ、じおにいちゃ…どうし…っここ…」
「……別に…通りかかっただけだ…もう、泣くな」
 輝二は溢れてくる友樹の涙を口唇で受け止める。
「…うん……ボク…泣かない」
 友樹は精一杯涙を我慢し、輝二を見上げて笑った。
「……エライな」
 輝二は優しく友樹の頭を撫でる。
 

 輝二は友樹が落ち着くまで何も言わずにその身体を抱きしめていた。
 静かな空間にトクン、トクンと心臓の音だけが響いていた。
「…お前、名前なんていうんだ?」
 その心地よい沈黙を破ったのは意外にも輝二だった。
 それをキッカケに友樹がまくし立てるように話し始めた。
「ボクね、氷見友樹っていうの。今日は輝二おにいちゃんに助けてもらってばっかりだね」
 "ありがとう"と、屈託のない満面の笑みを向けられる。
 まるで向日葵のような友樹の笑顔に輝二の鼓動が跳ねる。
「別に…そ、それより、こんな時間に何してたんだ?」
 輝二は素っ気無く視線を逸らす。
 自分の頬が熱くなったのを感じて、周りが暗闇で良かったと思う。 
「うん。あのね。星がね、とってもキレイだったの」
「星…?」
「シュルルーって流れてね、こっちに落ちたの」
「それで…追いかけてたら迷子になったのか」
 輝二は口元に笑みを浮かべた。
「うん。その星ね」
 そんな輝二の心情を知ってか知らずか、友樹は嬉しそうに耳元に口を寄せてくる。
「輝二おにいちゃん(ヴォルフモン)みたいにキラキラ光ってたの♪」
「!!!」
 すっかり固まってしまった輝二に疑問を持つこともなく、友樹は話を続けた。
 ここが明るかったなら、友樹も少しは疑問に思ったであろう…。
 まさに、瞬間湯沸し器な輝二に……。
 
 
 

 拓也はあれからしばらく友樹を探し続けていたのだが、泉達によって強制連行されてしまっていた。
 ここは土地勘のあるポコモン達にまかせよう、と。
 それでも、納得のいかない拓也は家の前でずっと友樹を待っていた。

 夜もだいぶ更けた頃。
 ポコモンとネーモンと手を繋いだ友樹が帰ってきた。
「友樹!!」
 拓也はその姿を確認すると同時に走り出していた。
「あ、拓也おにいちゃん!」
 拓也に気付いた友樹が嬉しそうに笑顔を見せる。
「お前、どこいってたんだよ!?」
 ポコモン達の手を振り解き、拓也は友樹を抱き上げる。
「えとね、迷子になっちゃって…」
「今度からどっか行く時は俺に言え。絶対に一人で行動するな!」
 最後まで聞かないうちに、拓也は友樹のオデコを指で軽く弾いた。
「ごめんなさぁい」
 友樹は両手でオデコを抑えて、上目遣いで拓也を見つめる。
「でも、よく一人で帰ってこれたな」
 友樹を見つけてきたポコモンとネーモンを完全無視し続ける拓也に、次の瞬間、天罰とでも言うべきものが下される。
「うん。輝二おにいちゃんが助けてくれたの」
 

 -ピッキィーーン-
 

 輝二が瞬間湯沸し器なら拓也は瞬間氷結器だった。
「拓也おにいちゃん?」
「……アイツに会ったのか?」
 俯いた拓也の表情は読み取れないが、押し殺したような声色からいとも簡単に想像できる。
「うん。ボクが泣き止むまでずっと傍にいてくれたよ」
 幼い友樹がそれに気付くはずもなく、嬉しそうに話し続ける。
「いろんなお話したし、頭も撫でてもらっちゃった」
 その言葉にピクリと拓也の肩が僅かに震える。
 友樹の笑顔とは裏腹に、拓也の表情は引き攣る一方だ。
 ポコモン達はその並々ならぬ気配にゆっくりと後ずさる。
「輝二おにいちゃんって、すっごくキレイでカッコイイね」
「ほぉ〜そうか〜きれいでぇ〜かぁっこいいのかぁ〜」
 止めを刺されて壊れたらしい……。
「でもね。ボクの憧れのヒーローは拓也おにいちゃんだよ」
 友樹は照れたように頬を赤くして笑う。
「!!…お前のことは俺が絶対に護ってやるからな!」
 その表情に心の底から庇護欲をくすぐられた拓也。
「うん。だけど、ボクもいつかヒーローみたくなって、拓也おにいちゃんのこと護ってあげるね」
 拓也は思わず言葉をなくして友樹を見つめ、次の瞬間には小さな友樹の身体を力いっぱい抱きしめていた。
 

 なんとも単純な作りの拓也に、小さく哀れみの溜息をつくデジモンが2匹…。
 彼らは絶対にさっきのことは拓也には内緒にしようと心に誓う。
 先程、輝二と別れる時に、友樹が言った台詞。
 
 
 

「あのね、輝二おにいちゃん…」
 友樹は去ろうとする輝二の上着の袖を掴む。
「なんだ?」
「輝二おにいちゃんはボクがピンチの時は助けてくれる?」
 不安げな顔をして上目遣いで輝二を見つめる友樹。
「……もちろん」
「ホント?うわぁ、嬉しいな!約束だよ!」
 途端に太陽のように明るく笑う友樹。
「ボクね。ボク…輝二おにいちゃんにボクだけのヒーローになってほしいんだ」
「俺…が?」
「……ダメ?」
 友樹の大きな瞳がどんどん潤んでいく。
「ダメじゃないが…いいのか?」
「うん!輝二おにいちゃんがいいの♪」
 そう言って、友樹は輝二にギュッと抱きついた。
 

 計算なのか、無意識なのか。
 相手の根底をくすぐるための言葉、考えてるとしか思えない態度の数々。
 真の支配者は、氷のスピリット継承者かもしれない…。
 そう思う二匹の心情を知る者は誰もいない。
 
 


初デジF…書いてしまいました。
あぁ、氷見ちゃん可愛い!!!!!
深結の氷見ちゃん像はこんな感じです。
えぇ、やっぱり彼には氷の姫(女王?)になってもらわないと…ウフv
もう、岳と紙一重ですね(笑)
てゆーかね、氷見ちゃんは無意識なんですよ!
岳は計算なんで、この辺が微妙です(笑)

(C)20020426 志月深結
 

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