「…ん」
口唇が重なったのを感じて、岳は大輔の背中に腕を回してしがみつく。
大輔も、岳の腰を引き寄せるように抱きしめる。
そのまま、触れるだけのキスを深いものに変えていく。
逃げる舌を追いかけるように絡めると、触れ合った部分が痺れる。
静かになった公園に濡れた音だけが響き、二人の耳を犯していく。
そして、名残惜しさを残して、その口唇はゆっくりと離される。
「こ…ゆの…ドキドキするね」
少し頬を赤らめた岳が笑う。
「お…お前でも、そんなふうに思うのかよ」
「え〜。ひどいなぁ〜。ボクだって、ちゃんとドキドキするんだよ」
そう言って、岳は大輔の手を取り、自分の胸元に当てる。
「ほら、ね」
岳の心臓の音が聞こえる。
それよりも、自分の心臓の音の方が大きくて、大輔的には困りものだ。
さらに、さっきまで抱き合っていたせいか、岳の浴衣の胸元はすっかりはだけていた。
大輔の視線は泳ぎっぱなし、心臓は落ちつくどころか急上昇だ。
そして、ふと目についた、赤い痣。
「…これ…ヤマトさんが?」
大輔は反対の手で岳の細い首筋に触れる。
昼間見た時よりは薄くなった、紅の痣。
「え?蚊だよ?なんでお兄ちゃんなの?」
「!?え?蚊…って、マジで…」
「当たり前じゃない…こんなのそれ以外にないでしょ」
「え。なに…それじゃ、お前…まだ…」
岳のその一言で大輔のわだかまりが全部なくなった。
「???何言ってるの?大輔クン?」
「なんでもねぇ〜♪」
大輔はいつも通りの元気な笑顔を浮かべる。
「…へんな大輔クン」
岳はキョトンとしたまま、首を傾げて大輔を見つめる。
「知ってるか、それ、蚊以外でも、できるんだぜ〜」
大輔は企みを含んだ笑いを浮かべる。
「そうなの!?」
「こーゆーこと」
言いながら、口唇を反対側の首筋に押しつける。
「え?」
そのまま、首筋を舌で辿って降りていき、鎖骨にキスを降らせる。
「ちょ、大輔クン?」
そして、何度目かのキスの後、軽く歯を立て強く吸い上げた。
「っ、ん!」
大輔は反射的に逃げようとする岳の躰を抱きしめる。
「や…いたいよぉ…」
岳は大輔の肩を何度も叩く。
それでも、大輔は岳の躰に消えない痕を残そうと強く、強く…。
大輔はやっと口唇を離す。
そこには、真っ赤に咲いた花びらが1枚。
それに満足げな笑顔を浮かべて、大輔は岳を見た。
「ほら、出来ただ…」
そして、その笑顔は一瞬にして凍りつく。
そこには、涙目の岳が大輔を恨めしそうに睨んでいた。
「大輔クンのバカァーーーーー!!」
「うわぁー岳ー悪かったってーー!!」
公園は、一瞬にして痴話ゲンカの戦場に一変。
花火も終わった静かな夜空に、二人の声だけが響いていた…。
(C) 20000926 志月深結