ボク…夢を見て…。
みんなを……………。
【悪夢症候群】
「もう起きたのか?」
「……輝二サン…」
その声に振り向いたのは、さっきまで拓也の隣りで眠っていたはずの友樹。
「良い夢は…見れたか?」
「うん…ママが、いた」
どこか淋しげな笑顔は寝起きだからかもしれない。
「……そうか」
それでも気になってしまうのは、なぜだろうか。
「……………ごめんなさい」
「?」
どこかまだ夢の世界にいるような表情で謝罪する友樹に輝二は首を傾げる。
「…さっき…ボクは…」
俯いて言葉を無くす友樹に、それがさっきの事への謝罪だと気付く。
「別に…」
「…ボクは…みんなを傷つけてたかもしれないんだ」
「お前のせいじゃない…お前は、操られてたんだから…」
「それでも…ボクはっ!」
精一杯、泣くのを我慢した友樹が顔をあげる。
その大きな瞳に零れんばかりの涙を溜めて。
「ボクは同じコトをした…ボクは分かってたんだ…」
今度は輝二が言葉を無くす。
恐れていたことが起きてしまった…。
「苛める人間と苛められる人間…二つしかないならボクは……」
今度こそ、我慢していた涙が友樹の頬を濡らし伝う。
「俺だって、その二つしかないのなら、お前と同じ方を選ぶさ」
友樹の言わんとすることを理解し、輝二は静かに、だが力強く言葉を紡ぐ。
「けどな、人間はそれだけじゃない」
真っ直ぐに見つめてくる瞳は真剣そのもので、友樹には怖くもあり、心地好くもあった。
「護る人間…例え、苛められても何かを護ろうとする人間は強い。俺はそうありたいと思ってる」
「何かを…護る…」
「人は、皆弱いんだ…だから過ちを犯す。けど、それを自分の力で乗り越えなければいつまでも弱いままだ」
「……輝二サンの"護るもの"って?」
輝二の視線に、同じぐらい真剣な眼差しを返す友樹。
「………」
「……ボクは、輝二サンの大切なものを傷つけるトコだったよね…」
輝二の沈黙から自分の答を導いた友樹。
「拓也おにいちゃんに純平クンに……泉ちゃん」
俯いた友樹からは、その表情が読み取れない。
「お、おい…なんでアイツラが…」
「ボク、輝二サンに迷惑かけてばっかりだ…嫌われたくないのに…こんなんじゃボク、嫌われて当然だよね」
「違うっ!」
突然の輝二の叫び声に、友樹は涙で濡れた顔をあげる。
「俺はお前を嫌ってなんかないし、アイツラを護りたかった訳じゃない!ただ、お前が傷付くのが嫌だったんだっ!!」
友樹の腕に痛みが走ったと思った次の瞬間には、その小さな身体は暖かな温もりに包まれていた。
「…輝二…サン?」
友樹が輝二に抱きしめられているのだということに気付くのには、時間はかからなかった。
「だって…お前泣くだろう?」
抱きしめられたまま耳元から聞こえてくるのは、少し低めの輝二の声。
「いくら無意識だったからってアイツラを傷付けてたら…お前、今みたいに自分を責めて泣くだろう」
「……ぁ」
その通りだと気付く。
もし、あの時仲間の誰かを傷付けていたら、友樹はもう二度とチャックモンに進化することはなかっただろう。
それを乗り越えられるほど、友樹はまだ強くないのだから。
「…ごめ…なさ…っ」
友樹は輝二の背に回した腕に力をこめる。
そうしないと、身体が震えて立っていられなかったから。
「ボク…ボクッ……」
しゃくりあげる友樹の背中をさすりながら、輝二は言葉を続けた。
「いいか、友樹。強くなれ…苛めっ子を見返すためじゃなく、何かを護るために強くなるんだ」
「……ボクが、護るもの…」
「ゆっくりでいいんだ。護りたいと思うものが見つかれば人は強くなれる。俺は……」
輝二はそこで言葉を止めた。
「……ボク、がんばる!」
まだ、その先は必要ないと思ったから。
続きは、友樹が護るものを見つけた時にでも言えばいい、そう思ったから。
「…そろそろ戻るか。アイツラも起きだしてくる頃だろ」
「うん!」
輝二がゆっくりと身体を離すと、昇りかけの朝日が見えた。
目映い陽光が、友樹の笑顔を一段と輝かせていた。
……俺は、お前を護るために強くありたいんだ……