「いらっしゃいませ」
ここは喫茶ALUCARD。
雪流がバイトしている喫茶店だ。
こうみえても、雪流はなかなかバイト経験が豊富だったりする。
最初はウイニングバーガー、次にジュエリー・ヴァンサン、そして花屋アンネリーと来て、今に至る。
どれも中途半端で辞めたのかといえば、そうではない。
じつは、このバイト経歴…とある人物のせいなのである。
まずは、ウイニングバーガーを辞めた理由から…。
「いらっしゃいませ〜♪」
「…雪流」
「あ、珪。食べに来てくれたんだ」
「……なぁ、それ制服?」
「え?あ、うん。可愛いでしょ」
「…………」
「あれ…ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
「…けど?」
「スカート短すぎる」
「え、そうかな……」
「俺以外の奴に見せたくない」
「………うん」
ということで、スカートの丈がNG。
次にジュエリー・ヴァンサンでは…。
「いらっしゃいませ」
「…雪流」
「え?あ、珪。ジュエリーショップに来るなんてめずらしいね?」
「あぁ…」
「?せっかくだからゆっくり見ていってね」
「なあ、お前、そんなアクセサリー持ってたか?」
「え?…あぁ、これは商品なんだよ。こーやって接客するとね、同じの欲しいってお客様がけっこういるんだって」
「…………」
「………珪?」
「こんなのより、俺があげたやつのがずっと似合う」
「え、でも…」
「俺の知らないもので、雪流が綺麗になるなんて嫌だ」
「…………………うん」
ということで、珪があげたアクセサリー以外を付けるのがNG。
花屋アンネリーでは…。
「ありがとうございました!」
「…雪流」
「え…あ、珪!いらっしゃいませ!」
「なぁ…さっきの花…」
「あ、やっぱり分かる?あれ、私が作ったんだ。ピンク系ばっかだからバレバレかな(笑)」
「……なんで?」
「え…なんでって…お客様が私にまかせるって言うから…」
「ふぅん……」
「なんか…ダメ?」
「………………別に」
「ダメなんだね…」
「そんなこと言ってないだろ」
「じゃあ、私、このバイト続けてもイイ?」
「………………………」
「ほら…」
「お前が…笑顔で花なんて渡すから…」
「それがお仕事なんだけどな…………はぁ」
ということで、珪以外に笑顔で花をあげることがNG。
と、どれもバイトとしては致命的な必要要素が気に入らない。
ワガママ王子、葉月珪のおかげで、雪流はバイトを転々とするはめになったのだ。
今度の喫茶ALUCARDも長くは続かないと思っていた雪流だが…。
「…雪流」
「あ、珪。いらっしゃいませ。いつものでいい?」
「あぁ」
「モカお願いしまーす」
「だいぶ、慣れたみたいだな」
「うん。店長もいい人だし、珪も何も言わないしね」
「………悪かったな」
「いいよ。私もこのバイト気に入ったし…ここだと珪の傍にいられるもんねv」
「あぁ。俺も安心できる」
「安心?」
「いや…こっちの話。それより、お前、もう上がりだろ?俺、送ってく」
「ホント?ありがと!じゃあ着替えてくるから待っててね♪」
どうやら、珪のお気に召したらしい。
さすがにこれは、雪流にとっても予想外の展開だった。
が、バイト先が定着したのは、喜ばしいことなので、あまり気にはしなかったみたいだ。
そんなちょっと人間としてどうかと思うことをしてしまう珪もすごいが…。
明かに計算されたそれに全く気付かない雪流もなかなか大物なのかもしれない。
今日も、喫茶ALUCARDには、珈琲の良い匂いと看板娘(?)雪流の元気な声が響く。
………結局、似た者同士でお似合いってこと?
……いいのか、それでっ!?
どんなに探しても珈琲の花言葉はありませんでした…。
誰か、知ってる方いたら教えてください(笑)
(C)20020722 志月深結
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