むかし、とても可愛らしい女の子がいました。
一目見ただけで、誰もがこの子のことを好きになりました。
この子にはおばあさんがいました。
おばあさんは、特にこの子を可愛がり、赤いずきんをあげました。
女の子はその赤いずきんがとっても似合っていたので、みんなから「赤ずきん」と呼ばれていました。
ある日、お母さんが赤ずきんに言いました。
「赤ずきん。このケーキとワインを持って、病気のおばあさんの所まで行ってくれないかしら?」
「えぇ、いいわ」
「それから、道草なんてしてはいけませんよ」
「大丈夫よ、ママ。それじゃあ、行ってくるわ」
赤ずきんはケーキとワインの入ったバスケットを持って家を出ました。
おばあさんの家は村外れの森の中にありました。
赤ずきんは森に入ったところでオオカミに出会いました。
赤ずきんはオオカミがどんな動物か知りませんでした。
「こんにちは。オオカミさん」
「…あぁ、こんにちは…こんなに早くからどこに行くんだ?」
「病気のおばあさんの所にお見舞いに行くのよ」
「おばあさんは病気なのかい?」
「…えぇ」
「それはいけないね。こっちに来てごらん」
「道草はダメって、ママに言われてるの」
「大丈夫。すぐだよ」
オオカミは赤ずきんの手を取り、森の奥の方に歩き出しました。
オオカミは赤ずきんを花畑に連れて行きました。
「おばあさんにこの花を摘んでいってあげるといい」
「ありがとう!優しいのね、オオカミさんって」
赤ずきんは夢中で花を摘みました。
「君の名前は?」
「私は『赤ずきん』って呼ばれているの」
「赤ずきん…そうだね、君には赤が良く似合ってる」
「ありがとう」
赤ずきんは可愛らしい笑顔でお礼を言いました。
「こんなお花畑、今まで知らなかったわ。オオカミさん、教えてくれてありがとう」
両手いっぱいの花をバスケットに詰めて、赤ずきんはオオカミにお礼を言いました。
「赤ずきん。そろそろ行かないと、おばあさんが心配するよ」
「本当だわ!私ったら、あんまり楽しくて、つい…もう行かなくちゃ」
「赤ずきん、帰る時にもう一度、ココに寄ってくれないか?」
「…うん。待っててね」
「気を付けて行くんだよ」
「うん!」
赤ずきんは、オオカミに手を振りながら花畑から走り出しました。
「おばあさん、こんにちは」
「赤ずきん。よく来てくれたねぇ」
「ご機嫌はいかが?」
「えぇ、えぇ。赤ずきんの顔を見ると元気が出てきたよ」
「よかったぁ。これはママがおばあさんにって…それと、途中のお花畑で摘んできたお花なの」
赤ずきんはバスケットからケーキとワインを取り出し、テーブルに置き、花束をおばあさんに手渡しました。
「おやおや、ありがとうね」
「それじゃあ、おばあさん。私はこれで帰るね。また来るからね」
「そうかい?気を付けて帰るんだよ」
「は〜い」
赤ずきんは何も入っていないバスケットを持って、おばあさんの家を出ると、急いで花畑へ向かいました。
「赤ずきん。大丈夫だったか?」
「ねぇ、この森はそんなに危険なの?」
「どうして?」
「みんな『気を付けて』とか『大丈夫』ばっかりなんだもの」
「ん…そうだな。危険じゃないかもしれないし、まだ赤ずきんが悪い奴に出会っていないだけかもしれない。とにかく、一人で森に入る時は気を付けるんだ」
「じゃあ、オオカミさんと一緒だったら、平気だね」
赤ずきんはオオカミの腕を抱きしめました。
「どうして?」
「だって、オオカミさんは良い人だもの」
「なんでそう思う?」
「こんなに綺麗なお花畑を知ってるんだもの。悪い人ならこんな所知らないわ」
「そうか…」
「私、そろそろ帰らなきゃ…ねぇ…明日も来てもいい?」
「いいよ」
オオカミは笑顔で赤ずきんの頭を撫でました。
「それじゃあ、また明日、ココでね」
赤ずきんは嬉しそうに笑って、家に帰りました。
「ママ、ただいまっ」
「おかえりなさい、赤ずきん。おばあさんの具合、どうだった?」
「うん、元気そうだったよ」
赤ずきんはバスケットをテーブルの上に置きながら答えました。
「また、お見舞いに行くから、ケーキ作ってね」
「もちろんよ」
「あっ、ママ。今からクッキーを焼くの手伝って。明日、森に遊びに行くの!」
「森に?気を付けて行くのよ。森には悪いオオカミがいるんだからね」
「…悪い…オオカミ?」
「そうよ。人を食べちゃうんだから」
「食べる…人を?…あっ!うん、気を付けるね」
次の日、赤ずきんは生まれて初めてお母さんにウソをついてオオカミに会いに森に行きました。
「どうしたんだ?赤ずきん」
元気のない赤ずきんを気遣って、オオカミが声をかけました。
「…ママがね…森には…人を食べちゃう、悪いオオカミがいるって…それ、オオカミさんじゃないよね?」
「…」
「…そう…なの?」
「…あぁ」
「!!」
「でもっ!赤ずきんが『するな』って言うなら、何もしない!!」
「…本当に?」
「誓うよ」
「…オオカミさんの名前、なんて言うの?」
「俺?…俺はヴォルフ…俺を、嫌わないでくれるのか?」
「なぁぜ?私はヴォルフのこと、嫌ってなんかないわ。それより、クッキー作ってきたの。一緒に食べよ」
赤ずきんはバスケットからたくさんのクッキーを取り出しました。
「ありがとう」
ヴォルフはクッキーを1枚、口に運びました。
「…おいしい」
「よかった。もっといっぱい食べてね」
「色々、ありがとな。赤ずきん」
「うん」
赤ずきんとヴォルフは日が暮れるまで花畑で遊びました。
「明日は、森の中を案内してやるよ」
「本当?ヴォルフ」
「あぁ、赤ずきんが気に入りそうな所に連れて行ってやる」
「わぁい。じゃあ、明日ね」
「じゃあな」
赤ずきんは家に帰っても、明日が待遠しくていけませんでした。
「赤ずきん。何かいい事でもあったの?」
赤ずきんはいつまでも笑っていられるような気がしていました。
「うん!あのね…やっぱり何でもない」
赤ずきんはオオカミを恐がっている母親に、この事を言うか迷いました。
「この子ったら、どうしたの?」
「…ママ…怒らないって約束してくれる?」
「…えぇ」
「私ね、お友達が出来たの」
「まぁ、いい事じゃない」
「その人ね…ヴォルフっていう…オオカミさんなの」
だけど、赤ずきんは母親にだけはヴォルフの事を知っていてもらいたかったのです。
「オオカミ!?」
「でも!とっても良いオオカミさんなのよ!本当なの。信じてっ!」
「…誰も赤ずきんを疑ってなんていませんよ。でもオオカミはとても恐い動物なのよ」
「恐くないもんっ!とっても優しいもの。私にとても綺麗なお花畑を教えてくれたし、今日だって一緒に遊んでくれたもの!」
「そう…そのオオカミはきっと赤ずきんの事が大好きなのね…でもいいこと、もしオオカミがあなたを食べそうになったら、すぐに逃げるんですよ。いいですね」
「…はい」
だけど、ヴォルフに出会った赤ずきんは母親から教えられたオオカミの恐さが消えていました。それ程、ヴォルフは優しいのです。
「今日は、もう寝なさい」
「おやすみ、ママ」
その夜、赤ずきんは夢を見ました。ヴォルフと一緒に花畑で遊んでいる夢でした。
「それじゃあ、ママ。行ってきまぁす」
朝早くから赤ずきんは嬉しそうに森に出掛けました。
森に入ってしばらくすると、赤ずきんはヘビに出会いました。
「今日は、赤ずきん」
「こんにちは、ヘビさん」
そのヘビは、とても強い毒を持った毒ヘビでした。
でも、赤ずきんはそんな事は知りませんでした。
「どこに行くんだい?」
「ヴォルフに森を案内してもらうのよ」
「へぇ〜でも残念だね。君はヴォルフの所まで行けないよ」
「なぜ?」
「僕が君を食べてしまうからさ!」
「!きゃあぁ!!」
ヘビは赤ずきんに噛み付こうとしました。
けれど赤ずきんに近づく事が出来ません。
「?」
赤ずきんは閉じていた目を開けました。
「ヴォルフ!」
「このバカヘビ!赤ずきんに何してんだっ!」
ヴォルフがヘビの体をつかんでいたのです。
「ヴォ、ヴォルフ!ウソだよっ。冗談だって!」
「…なら、さっさと消えろ」
ヴォルフがヘビを睨むと、ヘビは草むらの方に逃げていきました。
「大丈夫か?赤ずきんっ」
「うん…でも、恐かったよぉ〜」
赤ずきんは体の力が抜けて、その場に座り込んでしまいました。
「よしよし」
ヴォルフは赤ずきんの頭を撫でて、赤ずきんをおんぶしました。
「ごめんね、ヴォルフ」
「いいんだよ。赤ずきんは俺が守ってやるから」
「…うん」
「よしっ!このまま湖まで行くぞ」
「湖!?わぁ〜ぃ!」
ヴォルフは赤ずきんをおんぶしたまま走り出しました。
湖に着くと赤ずきんは裸足になって湖の中に入りました。
「ヴォルフもおいでよっ!冷たくて気持ちいいよ」
「こけるなよ。赤ずきん!」
ヴォルフは水辺に行って湖をのぞき込みました。
「オオカミか…」
「どうしたの?」
「赤ずきんは…俺の事、どう思う?」
「…私は、ヴォルフのこと大好きだよ 」
「俺が、オオカミでも?」
「そんなの関係ないよっ!私はヴォルフが大好きなんだから、私が好きなのはヴォルフなの。オオカミのヴォルフなの!」
「そうだよな…俺としたことがつまんねぇ事、考えちまった…赤ずきん、次は甘い実がなる木に行くぞっ!」
「うん!」
ヴォルフは赤ずきんを色々な所に連れて行きました。
赤ずきんは初めての事ばかりなので、とても喜びました。
「すごい。すごいわヴォルフ!こんな所誰も知らない。私達だけの秘密の場所ね」
「そうだよ。二人だけの、秘密の場所だ」
「ヴォルフ。私ね、明日はおばあさんのお見舞いに行かなきゃいけないの。だから…明日は、遊べないの…ごめんなさい」
「そうか…」
「ヴォルフも一緒に行こ?」
「俺?…止めとくよ。おばあさんはきっと恐がるだろうから…」
「なんでそんなこと言うの?私は恐くないよ!」
「そんな事を言うのは、赤ずきんだけさ…今日は楽しかったよ、また今度な」
「ヴォルフ…」
赤ずきんはヴォルフの鼻先にキスをしました。
「明日、いつものお花畑で待ってて!絶対に行くから」
そう言って、赤ずきんは走り出しました。
「ただいま」
家に帰った赤ずきんは、ヴォルフのことが気になってなりませんでした。
「おかえりなさい、赤ずきん」
「…ママは、オオカミが恐い?」
「どうしたの、急に?」
「みんなヴォルフを恐がるんだって」
「…それはね、オオカミは昔、悪い事をいっぱいしていたの。人の家のニワトリを食べたりヒツジを食べたり」
「そんなことしないっ!」
「そうね…最近は何もしていないわ。それはきっと赤ずきんのおかげよ。でもね、村の人はそんな事知らないでしょう…だから、オオカミを恐がるのよ」
「そんなのっ…」
「大丈夫よ。村の人もいつか分かってくれるわ」
母親は赤ずきんを抱きしめました。
次の日の朝、赤ずきんはおばあさんの家に行く用意をしました。
「赤ずきん。気を付けて行くんですよ」
「はい、ママ」
赤ずきんはたくさんのケーキとクッキーとワインをバスケットに入れて家を出ました。
赤ずきんは森に着くと花畑まで走りました。
「ヴォル…フ?」
けれども、花畑にヴォルフの姿はありませんでした。
「赤ずきんじゃないか」
「ヴォルフ!?…あ…狩人さん」
「どうしたんだい、こんな場所で?」
「ううん…狩人さんは?」
「わしはオオカミを捕まえに来たんじゃよ」
「オオ…カミ?殺しちゃうの?」
「そりゃあそうさ。今まで散々悪い事をしてきたんだ。当然じゃよ!」
「!!!」
赤ずきんの手からバスケットが離れ、中のケーキやクッキーがこぼれました。
「赤ずきん、どこに行くんだ!?戻りなさい」
赤ずきんは狩人の言うことも聞かずに走り出しました。
「ヴォルフ!どこにいるの、ヴォルフ!?」
赤ずきんは森の湖や今までヴォルフに連れて行ってもらった場所を探しました。
けれど、ヴォルフの姿はどこにもありません。
「ヴォルフ…」
「これは、赤ずきんじゃないかい。今日は」
「え?あなたは…私を食べようとしたヘビさん!」
「もう食べようなんて思ってませんよ。赤ずきんを食べたら僕がヴォルフに食べられてしまいますからね」
「そうだっ!ヴォルフを知らない!?早く見つけないと大変なの!」
「ヴォルフなら朝早くに森の奥に行ったよ」
「森の奥ねっ!ありがとう」
赤ずきんは森の奥に向かって走り出しました。
「俺が人間だったら…」
ヴォルフは大きな樹の木の枝に寝っころがって空を見上げていました。
「オオカミが人間になりたいだなんて、アンタどうしたのさ?」
一羽の小鳥がヴォルフの頭にとまって話しかけました。
「お前には関係ない事だ」
「いいじゃん。話すとスッキリするわよ」
「…人間の女の子を…好きになったんだ」
「アンタが?人間の子に…恋!?」
小鳥は大声で笑いました。
「テメーが言えってったから言ったんだぞ?何笑ってるんだっ!!」
「ごめんごめんっ!その子はどんな子なのさ?」
「…可愛い子でさ。なんか、ほっとけなくて…俺が守ってやらなきゃって感じの子で…とにかく、すごく大事なんだっ!」
「…赤ずきんの事かい?」
「知ってるのか?」
「この森に住んでる奴で赤ずきんを知らない奴なんていないさ」
「そうなのか…」
「だから人間になりたかったのかい?」
「…あぁ」
「ヴォルフ!」
ヴォルフはその声にバランスを崩して、木の枝から落ちてしまいました。
「いってぇ」
「大丈夫かい?さすがのアンタもこの子の前では形無しだね」
「赤ずきん…」
「よかった…無事で」
「どうして、ここに?」
「早く逃げて!」
「!?」
「狩人さんがヴォルフを狙っているの!」
「狩人が…」
「あのオオカミめ、一体どこにいるんだ。おや?あれは、赤ずきんと…オオカミじゃないかっ!?なんて事だっ、早く助けないと!」
狩人は二人に気付かれないように、茂みの中から静かに銃口をオオカミに向けました。
「お願い、早く逃げて!」
赤ずきんがそう叫んだと同時にバァーンという大きな音が森中に響きました。その後、一瞬、森は静けさに包まれました。
「赤ずき…」
ヴォルフは赤ずきんの目の前にゆっくりと倒れてしまいました。
「…うそ…やだ…ヴォルフ?…ヴォルフ!?いやよっ!瞳を開けてっ!いやぁ!!」
赤ずきんはヴォルフの躰を必死で抱きしめました。
「赤ずきん!無事だったかい、よかった」
狩人が赤ずきんのいる場所まで来ました。
「助けて!ヴォルフを助けてっ!」
「ヴォルフって…オオカミをかいっ!?」
「お願い!助けて!!彼を殺さないでっ!」
赤ずきんはヴォルフを抱きしめて離そうとしません。
「離すんだ、赤ずきん!そいつはオオカミなんだぞ」
狩人はオオカミから離そうと赤ずきんの腕をつかみました。
「いやよ!オオカミでも私は大好きなのっ!」
「あ…かずき…ん」
「ヴォルフ!?今、助けてあげるよ!だから、死なないで!がんばって!」
「赤ずきん!これで傷口を押さえて!」
小鳥が薬草を赤ずきんに渡しました。
「ありがとう。大丈夫だよ、ヴォルフ。私が助けてあげるからっ」
赤ずきんはヴォルフをおばあさんの家まで運ぼうとしましたが、小さな赤ずきん一人ではヴォルフを動かすことは出来ません。
「待ちなさい!どこに行く気かね?」
「狩人さん!?離してっ!おばあさんの家に行って、手当てをするの!早くしないと、ヴォルフが死んじゃうわ」
「…わしがオオカミを運んでやるから、赤ずきんは先におばあさんの家に行って準備をしていなさい」
「…」
赤ずきんは何も言わず狩人の瞳を見つめました。
「助けたいんだろう?」
「…うん!」
赤ずきんは狩人の言葉を信じて、おばあさんの家に向かって走り出しました。
「俺を…殺すのか?」
「殺しゃあしないよ。赤ずきんと約束したからな」
狩人はヴォルフの肩を組み歩き出しました。
「そうか…」
しばらく行くと森の奥のおばあさんの家が見えてきました。
「狩人さん!こっち、早く!」
赤ずきんはドアの前で叫びました。
「ヴォルフ、大丈夫だよ。ぜったいに助けてあげる」
「赤ずきんや。早くベッドに寝かせておあげ」
「ありがとう、おばあさん」
赤ずきんと狩人はヴォルフををベッドに寝かせました。
「…大丈夫だ。弾は残っていないし、急所もはずれていたようだ」
狩人はヴォルフの傷口を処置をして、包帯を巻いてやりました。
「赤…ずきん?」
「何、ヴォルフ?」
「そばに…いてくれ」
「うん…うん。ここにいる。いつもヴォルフのそばにいるよ」
赤ずきんはヴォルフの手を強く握りました。
「ヴォルフ…」
ヴォルフは瞳を閉じ、いつの間にか眠っていました。
「大丈夫。コイツは運の良い奴だ。助かるよ」
「ありがとう、狩人さん」
「赤ずきんや。このオオカミは?」
「おばあさん。ヴォルフは…私の大切な人」
「…赤ずきんは、そう想える人と出会えたんだね。赤ずきんの大切な人なら、私にとっても大切な人だよ」
「…ありがとう」
赤ずきんはおばあさんの家に泊めてもらう事にしました。
「ごめんなさい。おばあさんはご病気なのに」
「いいんですよ。彼の方がもっと大変なのだからね。それより赤ずきん、あなたも少し眠りなさい」
「ううん。私はいいの。ヴォルフのそばにいたいの…おばあさんこそ、もう寝ないとお躰にいけないわ」
「赤ずきんにこんなに想われてるなんて、彼は幸せだね」
「うん」
赤ずきんはヴォルフを見つめて優しく微笑みました。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、おばあさん」
その夜、赤ずきんはずっとヴォルフのそばにいました。
「…ん」
次の日、ヴォルフは瞳を覚ましました。
「ヴォルフ!大丈夫?どこか痛くない?」
「…あぁ、もう大丈夫だ」
「よかった」
赤ずきんはヴォルフを抱きしめました。
「本当に…よかった」
「もう行くよ…ありがとう、赤ずきん」
「…どうして?」
「俺は、オオカミなんだ」
「どういうこと!?」
「人間とオオカミなんて…誰が見ても変じゃないか!」
「そんなことない…私は、そんなこと気にならないっ!それともヴォルフは…私のことが嫌いなの?」
「嫌いじゃないっ!好きだから…赤ずきんが大好きだから俺は…俺の傍にいると今度は赤ずきんが危ない目に逢うかもしれない」
「そんなの平気よ!好きだから一緒にいたいの…私はヴォルフが大好きだから、ずっと一緒にいたいよ」
「…」
「そうですよ、オオカミさん。赤ずきんの気持ちを無駄にしないで下さいな」
「おばあさん…」
「…俺で、いいのか?」
「うん。ヴォルフがいいの、オオカミのヴォルフがいいの!」
それから、赤ずきんとヴォルフは森の花畑に小さな家を建てて、二人でずっと仲良く暮らしました。